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一回目の授業は大切である。学生にとっては一番印象が強いはずであり、この授業を選択するかしないかを決める判断に関与するので、この授業の全体像が分かるように説明をしたい。1回目の授業では教科書を購入していない人も多いので、教科書がなくても理解できるような授業にする。
本日の授業の段取りは次のような順番である。
(1)教科書の説明をおこなう。今年度は『英語科教育の基礎と実践』(三修社)を用いる。JACET(大学英語教育学会)の分科会である教育問題研究会のメンバーの人々が編集した本である。この本を読むときは、章のタイトルとキーワードに注目すること。英語教育法という学問は「どのようにしたら効果的に英語を教えられるかという方法」を学ぶのであり、たくさんの新しい用語が出てくる。それらの用語は大切であるから巻末にある索引を利用して確認すること。教科書を前から順番に読んでいくという考えではなくて、分からない点があればそれを確認するという辞典のような使い方も大切である。
(2)序章は「成長する英語教師を目指して」である。英語教師に期待されているのは、学習者の英語コミュニケーション力を向上させることである。英語教師とコミュニケーションという二つの用語に注目すること。(参考:教師という表現についての記事をも読むこと。)
(3)自分自身の紹介をする。自分の大学の時は、コミュニケーションということは重要視されなかった。それは実際の外国人と出会う機会が希であり書籍を通してしか外国と接することの出来なかった時代である。自分が学部で勉強した時は、英米文学偏重であった。法学部や経済学部の学生も文学作品を読んだ。しかし、次第にコミュニケーション重視、実用英語重視へと変わっていった。それはグローバル化で外国人と実際に接することが増えたからである。それゆえにコミュニケーションは大事なキーワードとなっている。
今後さらに変わってゆくとしたら、それは電子機器のめざましい発達であろう。SNS, YouTube, Blog などの利用が頻繁になる。また、辞書や翻訳サービスが利用しやすくなる。これから英語教員を目指す人は、技術革新に対して柔軟に対応できる人が必要になる。自分自身が、大学で英語を学び、次は、高校で英語教員をして、それからいくつかの大学で英語を教えてきた経験からすると、時代の変化が著しい。英語教育は変わってゆくのでそれに対応できるような人材になってほしい。
(4)「成長する」英語教師であるが、これだけ時代の変化が激しいと同じ授業法を繰り返すわけにはいかない。授業も分かりやすく、電子機器があればそれを利用したい。自分の授業力が成長するためには、PDCAが提唱されている。PLAN,DO,CHECK,ACTION のことである。PLAN=計画する、DO=行動する、CHECK=確認する、ACTION=改善する、ことで授業が少しずつ改善されていくことであり、評価とも関連する。
英語教師の成長は一つは自分の英語力の伸長である。TOEL550, TOEIC 730, 英検準一級が目安とされている。もう一つは授業力である。しかし、これは目安が分かりづらい。授業用アンケートなども活用することが可能だが、とにかく客観的な指標を示すことは難しい(英語教員の授業力の可視化)。最近はアクティブラーニングが叫ばれている。つまり、授業では座学として生徒を45分椅子に縛り付けることは好ましくないとされている。同時に、大学の英語教育法の授業においても、アクティブラーニングが提唱されている。
(5)文科省や中央教育審議会の動きを見ていくことも必要である。昨年公示された新学習指導要領の意向をよく知っておく。学習指導要領の最新版はネットで簡単にダウンロードできる。そして、文科省が近年影響を受けているCEFR, Can-Do Statement についても検討しておきたい。過去の行われた、英語が使える日本人育成のための行動計画、セルハイ(Super English Language High School = SELHi)、国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的政策、グローバル人材育成戦略等がある。
(6)免許状とこの科目の話をする。英語の教員免許状を取得しようとする人はこの授業を受けるのだ。一般に英語の教員免状を取ろうとするならば、教職に関する科目、教科に関する科目、教科又は教職に関する科目、免許法施行規則第66条の6に定める科目がある。その他に、中学の免許状ならば、介護体験も必要になってくる。英語科教育法のIとⅡは教職に関する科目として中学の場合でも、高校の場合でも必要である。つまり、英語教員になるためには、この科目は絶対に取得しなければならない。なお、のちほど、学生便覧などで、それらを見ておくように指示したい。
(7)学生がこれから何を学習するか目安として、J-POSTL: 自己評価記述文を示すのは有益である。
新しい時代の英語科教育の基礎と実践 成長する英語教師を目指して