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エラー分析

外国語の学習者の誤り(エラー)についての研究がある。これはエラー分析(Error analysis)と呼ばれている。エラーは、単に間違いであるだけでなくて、学習者が目標言語の修得に取りくんでいる様子を明らかにすると同時に、学習者の中にある「学習者の文法」を示すものである。エラーは、学習者が目標言語の構造について設定した仮説、つまり自分の持っている文法が目標言語の標準的な文法と異なっているときに現れる。したがって、エラーは学習者の学習の過程を映し出す鏡とも考えられる。そのために、エラーを分析・研究することで、学習者の持っている知識そして学習の方策を理解することにつながる。

首尾一貫したエラー

エラーには、規則的で首尾一貫している部分が多くある。授業中に、生徒の誤りを訂正しても、すぐには教員の意図したように訂正されない場合や、一応、その場では教員のモデルを真似ても、しばらくすると、また前と同様のエラーをしてしまうことがある。
学習者は、英語について自分なりの仮説や体系を持っていて、その規則は自ら作ったのであるから、たとえ教員に指摘されても、自分で納得できないときは、ただちにそれを改めることができない。

二言語間の相違に基づくエラーと言語内エラー

この場合のエラーは、その時点での学習者版の英文法(それは無意識のうち作られることが多いのですが)の反映であり、たまたまそれが標準的な英文法と異なっていたのである。 エラーには、もちろん、母語の干渉から生じる二言語間の相違に基づくエラー(interlingual error)があり、たとえば、発音の領域では、母語の影響が顕著である。しかし、統語の領域では、エラーの大部分は学習者が目標言語に接した経験が不十分なために、規則を過剰に一般化したりするために生じる。この種のエラーを言語内エラー(intra- lingual error)と呼び、その特徴によって次のように分類できる。

言語内エラーの特徴

(1) Over-generalization
目標言語の規則を拡大して適用するために、例外などを無視してしまう。例:He eated too much.(He ate too much)
two mouses (two mice) . She made me to come. (She made me come)

(2) Simplification
文法標識を最小限におさえ、動詞の活用語尾、名詞の屈折形、冠詞、助動詞等の文法形態素を省略したり、異なった文型を区別するのに、最小限の手がかりのみを用いる。例:He eat too much. (He eats too much); that two dog (those two dogs); What you are doing ?(What are you doing?)

(3) Developmental errors
母語として英語を修得する過程と類似したエラー。例:He took her teeths off.(He took her teeth off.); I didn’t weared any hat. (I didn’t wear any hat.)

(4) Errors of avoidance
特定の言語項目の使用を困難だと考えて、それを避けて別の表現法を用いる傾向。例:関係詞を用いることが苦手で、重文を用いる。I have a book which was written by Soseki. → I have a book. The book was written by Soseki.

(5) Errors of overproduction
特定の言語項目が正確に使用されているものの、その頻度が異常に高い場合。

中間言語

学習者の発話に誤りが多く見られても、それが組織的・体系的である限り、その学習者は自分なりの「言語」を持っている。目標言語とも「母語」とも異なった学習者の言語(language learner’s language)を両者の中間に位置するという意味で、Selinkerという言語学者は中間言語(interlanguage)と名付けてた。中間言語は、学習の進展に伴い、たえず変化していて不安定である。その言語社会の中で容認されていない、さらには、意志伝達の手段として恒常的に使われていない、という点で普通の言語の概念とは異なる。
中間言語の概念は、学習者の言語修得の過程の中に共通の規則性と発達の方向を見極めようとする考え方に基づいている。多くの学習者の中問言語は、特に室外の自然な言語修得の環境で修得される場合は、顕著な共通性を持っている。さらに、外国語として英語を学ぶ学習者の示す中間言語は、母語と して英語を学ぶ者が示す発達順序と全体的に多くの類似点を持っていることが明かになっている。

生来のシラバス

つまり、学習者が外国語を修得して、理解、発話していく手順には共通の特徴がある。つまり人間が外国語を学んでいく道筋は決まっていて、それは教える側の都合や、学習環境によって大幅に変更できるものではない。ある項目を習得して、それから、次の項目を習得するという順番が決まっている。この種の学習のプログラムは、自然な学習の順序を示しており、それは人為的に自由に組み替えることができないという意味で生来的である。言いかえ れば、それは学習者が持っている生来的なシラバス(built-in syllabus)であり、外国語修得の一般原理である。
この原理が解明されるならば、それは、教室内における教材の選択、構成、配列にも適用できるようになる。これまでの数多くの教材は、それぞれの時点で利用できる文法記述を用い、易—難、一般—特殊、単純—複雑などの順番で構成されていた。しかし、それは、従来の経験、あるいは勘に基づいて行われたものであり、科学的な根拠に基づいたのではなかった。
中間言語の研究が進展するにつれて、これまでの経験主義的な教授理論、教材編成が合理的で科学的なものに変わっていく可能性がある。

Krashen のThe Natural Order Hypothesis

なお、これはKrashen のThe Natural Order Hypothesis とも重なる。その理論は、言語の習得には一定の順番があり、それが逆になることはめったにない。この仮説によると、英語を第二言語として習得していく人は、第一言語が何であるかにかかわらず、また何歳であろうとも、A→B→C→D の順序で形態素を習得していく。それぞれのグループ内の形態素の習得順序は入れ替わることがあるが、A→B→C→D の順序は決して入れ替わることはない、と述べている。とりわけ、教室外での習得には普遍性がある。なお、A,B,C, D は下に示されている。

A:進行形、複数形、連結詞(主語と述語をつなぐ語;be,become,seemなど)
B:助動詞、冠詞
C:不規則過去形
D:規則過去形、3人称単数現在形(-s)、所有格(’s)

関係代名詞の習得の順序も以下のように(1)→(6)の順序、主格から比較級の目的語のように複雑になってゆく。

(1) Subject: The man that kicked the dog is my father.
(2) Direct object: The tree that the man cut down is  very old.
(3) Indirect object: The man that she cooked the cake for is my father.
(4) Object of preposition: The house that she lives in is very old.
(5) Genitive: The dog whose owner has died is barking.
(6) Object of comparative: The man that I am richer than is jealous.

形態素に限らず、文法事項、音韻でもこの順番があると仮定されている。


(参考: 米山・佐野『新しい英語科教育法』大修館書店)

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