理想の英語教師とはどのような教師であろうか。どのような資質が要求されるのか考えてみたい。
教員の資質
英語教員としての資質の前に、教員としての資質が必要である。つまり、自分は英語の授業をしていればいいのではなくて、学内の数多くの職務や課題に取り組む必要がある。それらは、ホーム・ルーム(学級経営)、生活指導、進路指導、部活動などの生徒指導などである。さらには、教務(カリキュラムや時問割の作成)、学校行事、広報活動、地域との連携などがある。さらには、どの学校独自の業務や課題が存在する。これらをこなしてゆく資質が求められる。
学校では職務分掌が定まっており、各教員が分担して、さらには、各分掌主任の指導の下で、職務が遂行されてゆく。 これらは、学級担任が1サイクルするごとに、通例2〜3年ごとにいれかわりがある。これによって、常に新しい課題に取り組み、自ら探求心を持って、教員としての使命感や責任感を育んでいく必要が出てくる。つまり、上司の教員や同僚の教員と協調しながら、学校全体の教育を遂行してゆく資質である。協調性と言えるだろう。
英語教員としての資質
上記のような資質を前提として、英語教員としての資質能力を備えている必要がある。つまり、教職としての人問的(人格・性格)な適性と英語教員としての適性の両方を考慮する必要がある。自分自身をよく分析して、自分自身が英語の教員に向いているかどうかを判断する必要がある。
例えば、英語力はあるかどうか、自分は教えることが好きかどうか、自分は忍耐強いかどうか、などが一つの目安になる。英語で授業をすることができるか。
英語教育法の授業の時には、クラスで話し合って、英語教員として一番大切な資質は何か箇条書きにして、それらに○×を付けて、自分の適性を考えてみよう。例えば以下のような資質が大切であろう。
英語学習の意義を伝える力
「なぜ英語を学習するのか」という問いに対して、「英語は国際共通語だから」とだけ答えるとすれば、承知しない生徒も出てくるだろう。英語を学ぶことの意義と利点をきちんと説明できるようしておくべきである。
日本では初等・中等教育の外国語教育は英語が支配的であるが、英語を通して異言語や異文化に触れさせ、複眼的な視野、バランス感覚、他者を理解する力、考える力、アイデンティティの確立などに必要であることを理解させる。それによって、世界の平和と調和に貢献できる市民を育成する」という大きな目的に結びつけることができる。
英語とは、学習者たちの可能性を大きく広げる重要なツールであること、日本の国際競争力を高めていく上での重要な要素であること、異なる国や文化の人々と円滑にコミュニケーションを図るツールであること、異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティを育むうえで、必要なことであることを学習者や、できたらその保護者に説明できるようになりたい。
英語力に関しての資質
文科省の調査によれば,2011年で英検準1級以上相当の英語力を有している教員は公立中学校で約24%、同じく高等学校 で約49%、2014年には、小学校が0.8%、中学校の英語担当教員が27.9%、高校の英語担当教員が52.7%となっている。文科省は目標として、全国平均70%に到達することを目標としているがその値には達していない。
しかし、数値が向上していることから、各都道府県市区町村の教員試験をパスした現職の教員たちが、自分の英語力の向上に努めていることが分かる。自ら積極的に研鑽をしていると同時に、授業を英語や、英会話を授業で、という有形無形の圧力を教員たちが受けているのではと思われる。
英語で授業を行う力
「英語で授業を行う力」も大切な資質である。これは、授業力とも関連する。英語で授業を行う力とは、これまでのような教員中心の授業ではない。これからの授業は、学習者中心でなければならない。つまり、授業を英語で行うということは、教員が英語を使って知識を与えるということではなくて、学習者に英語を使う経験をできるだけ多く与えることである。さらには、教員と生徒とのやり取りばかりでなく、生徒同士の学び合いの中でも、英語を使うように誘導するのである。
学習者に英語を使う経験を多く与えるための授業とは、どのような授業であろうか。基本的 には、授業展開に沿って、教室英語(Classroom English)を使いこなすことが第一歩となる。 なお、英語を使う経験を学習者にできるだけ多く与えることが必要であるが、英語だけでは理解できないと考えられる場合は、日本語を使うことも必要である。よく疑問としてあげられるのは、「文法の説明は英語で可能なのか」、「英語を日本語に訳すことは必要ないのかである」などである。難しい単語や熟語の意味、複雑な文法事項、日英の発想の違い、文化の違いなどは、無理に英語を使わずに、日本語を使ったほうが理解が早い場合もある。
コミュニケーション能力を養う力
学習指導要領における外国語教育の目標は、コミュニケーション能力を養うことである。
(1)コミュニケーション能力
(2)言語や文化に対する理解
(3)コミュニケーションを図ろうとする態度
これらの3つに分けて、それぞれどのような指導をすべきか考えてみたい。
(1)コミュニケーション能力
政府の諮問機関であるグローバル人材育成推進会議の報告書「グロ一バル人材育成戦略」の中では、コミュニケーション能力の目安を初歩から上級まで段階別に以下のように分けている。
①海外旅行会話レベル
②日常生活会話レベル
③業務上の文書・会話レベル
④二者間折衝・交渉レベル
⑤多数者問折衝・交渉レベル
以上のようである。このうち、グローバル人材として必要な能力は、④⑤のレベルになる。このレベルを育成するために必要な授業内活動は、聞いたり読んだりしたことについてまとめたり話し合ったりすることである。さらには、時事問題や社会的な話題などについて発表・討論・交渉などの言語活動を豊富に休験させること、などとしている。
発表・討論・交渉などの言語活動をすることが学校教育の最終目標とすれば、①と②の段階でも、そのような言語活動につながるような授業を展開することが必要である。そのためには、4技能を習熟させるとともに、複数の技能を統合して使う活動を設計することが必要である。つまり、生徒の興味・関心が高い話題について、ペアやグループで互いに学び合い、考えや気持ちを伝え合うこと(インタラクション)を目的としたアクティブ・ ラーニングを取り入れる必要がある。その場合の問題は、題材が学習者が興味を持つ題材を選ぶことである。無理に時事問題を選ばせても、内容が上滑りになることがある
(2)言語や文化に対する理解
英語学習の人門期から、英語と英語圏の文化を一体なものとして捉えて指導はすべきでない。むしろ、言語と文化の多様性への気づきを促すことが大切である。日本では英語学習が主体になり、英語という言語と英語圏の文化だけに目が向く傾向にある。しかし、現代の中学や高校の教科書では、アジア、アフリカ、南米、ヨーロッパ等々に関する様々な教材が用意されている。それらの教材を使って、学習者にそれぞれの地域で話されている英語や言質の言語や社会、文化について調べさせ、互いに学びあうという活動を取り入れていくことが必要である。
(3)コミュニケーションを図ろうとする態度
この態度を養うには,「コミュニケ一ションは楽しい」という内的な充実感を持たせる指導が大切である。英語を学ぶ理由として、「世界の人々と話せるから」が上位にランクされている。「話せる」ということは「コミュニケ一ションする」と同義と考えられる。海外研修などでホ一ムステイを経験した学生の多くは、帰国後「ホストフアミリーや現地の人と、英語でコミュニケ一ションができたらもっと楽しかったの に」などという感想を述べる。コミュニケ一ションをするということは基本的に楽しいものである。この楽しさを味合わせるには、人門期から、インタラクション活動を取り入れた、学習者中心のアクティブ・ラーニングによって、英語を使う活動を豊富に取り入れて行くことである。
学習者が話した り書いたりする英語には、文法、発音、語彙などの問違いがたくさんあり、つい指摘し直したくなるかもしれない。しかし、それは最小限にとどめ、彼らの活動への参加意欲を重視することである。間違いを恐れずに発言する態度を涵養することが大事である。
理想的な英語教師とは
まず、人間として教師としての適性・資質があるかどうかである。それらを前提として英語教員としての資質があるかどうかが重要になってくる。英語力があるかどうか、英語学習の意義を学習者に伝えられるかどうか、そして最も大事なことは、学習者にコミュニケーション能力を育成させることができたかどうかである。(参考、『行動志向の英語科教育の基礎と実践』(三修社))