概要
Notional/Functional Approach(概念・機能的アプローチ)が注目を浴びるきっかけは、ヨーロッパ評議会(the Council of Europe)の中に、単元・単位制(unit/credit system)の外国語教育を開発するチームが作られたことである。ヨーロッパの学校での言語教育のために、エック(J. v. Ek) が中心になって、The Threshold Level for Modern Language Learning in Schools を作成した。そこにこの教授法の概要が示されている。ウィルキンズ(Wilkins)の概念・機能シラバスはNotional Syllabuses はそこから生まれた。
概念・機能シラバスは文法シラバスや場面シラバスと対比させる。場面シラバスは、郵便局では、学校では、駅では、のようにシラバスを定めている。文法シラバスは文法事項に基づいてシラバスが組まれるのであり、外国語学習の独習本などによく見られる構成である。
言語学習の目標と機能分類
ここでは、言語学習の目標は「外国を旅したり、また自国で外国人に接触しても、日常的な場面でなら、言語的には何とか切り抜けて、また社交を確立し持続できる言語能力を与えること」と定義されている。つまり、英語を使用してコミュニケ一ションできる、ぎりぎりの言語伝逹能力を与えることを目標としている。
この目標の実現のために、学習者が直面するだろうと予想される言語使用の行為、場面、役割、話題、言語機能(function)、—般的概念(general notion) 等を分析して、それを学習内容の項目でまとめている。たとえば語彙では、約1,100語の受信・発信できる語彙と、受信だけの語彙480語を選定している。さらに、注目すべきは、機能リストであり、次の6項目に分類している。(なお、各機能ごとに下位機能として分類されたものが合計75項目ある。
①事実に関する情報を与えたり求めたりする imparting and seeking factual information
②知的態度を表現したり見つけ出したりする expressing and finding out intellectual attitudes
③情緒を表現したり見つけ出したりする expressing and finding out emotional attitudes
④倫理的(moral)な態度を表現するexpressing and finding out moral attitudes
⑤何かを依頼したり説得するgetting things done (suasion = persuasion)
⑥社交するsocializing
ただし、これらは一見すると①のように見えても⑤の依頼の場合がある。It’s cold in here.では、寒いので暖房を入れようとか、窓を閉めようという依頼の意味になる。
この各項目に、より具体的な機能を位置づけ、たとえば①の機能には、identifying, reporting(including describing and narrating), correcting, asking のように細かく分類されている。この機能を表わす言語構造を、場面や話題と結びつけて言語使用の実際に即した教材の作成を英語教員や教科書執筆者に求めている。
教授法の実際
どのような教授法が生ずるのであろうか。原則的には、ある機能(たとえばasking)がターゲットに設定されたら、その機能を含む場面が提示され、その後その機能の表現方法を取り出して練習し、次に文脈の中でのドリル、role-playやimprovisationによって、現実の言語使用に近い形で総合的に練習が行われる。
この教授法の利点は、文法にとらわれない現実的言語使用が学習できることであり、必要性を感じている表現がすぐ学習できることであり、それがまたすぐ実際に役立つから、動機づけの作用をすることなどがあげられる。学習者のニーズが明確な場合は、このアプローチは有効で、特にESPや、基礎学習は終了し言語伝達能力をつけたいと望んでいる学習者には、効果的なシラバスとなる。
依頼する場合は、Please…, Will you…, Could you …, I wonder if … などのようにたくさんあるが、一度に提示すると学習者は混乱してします。その意味では、スパイラル方式で何度も繰り返し、繰り返すごとに内容が高度になっていく提示の仕方が望ましい。
問題点
しかしこのアプローチが、言語伝達能力の育成を必ずしも保証するわけではない。現実の言語使用では、機能や概念が総合的に使用されているのであるから、いかに現実的な諸機能や概念をこのシラバスで学習しても、結局それは一種の「表現集」にとどまり、使用時には必要な概念や機能を拾い集めなければならない。さらに重要な点は、このシラバスでは文法は複次的にしか扱われず、言語学習が体系化しにくいことがある。当然のことながら学習者に、言語ルールの「一般化」が生じにくく言語能力が内在化しない可能性が強い。
そのために、中軸に文法シラバスをおいて、それに機能シラバスがらせん状に絡んで伸びてゆく方法が考えられる。つまり両方の長所を生かした教授法である。

さらに、評価が難しい点が挙げられる。正確さよりも内容で評価するのであり、どうしてもおおざっぱな評価しかできない。
教育現場での適用
まず、ニード分析(needs analysis)を行う。学習者が特定のニーズを持っている。たとえば、旅行とか、看護とか、電気工事などならば、特別の目的ESP(English for Specific/Special Purposes)の英語を学ばせる。学校教育では一般的な目的であり、EGP(English for General Purposes)を学ぶ。
単元・単位制(unit/credit system)では、自らが必要する外国語の単元、単位を学ぶが、すべての学習者に共通の領域があると考えられる。それがcommon coreである。これがThe Threshold Level である。