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英語教員の資質能力

英語教員に求められる資質能力について考えてみたい。英語教員には教科指導、校務分掌、学級・学年経営など様々な仕事がある。 それらの仕事を十分に果たすことが大切である。その仕事を遂行するための資質を2つに分類してみると、教職としての資質能力と英語教員特有の資質能力の2つに分類できる。それぞれがさらに細分類できうる。

資質能力の分類

教職としての資質能力 (人格・性格の適性、教職としての適性)
英語教員特有の資質能力(英語力、英語を授業する力)

教職としての資質能力

教職としての資質能力は、英語教員に限らず全ての教員が備えるべき力であり、人格・性格の適性と教職としての適性とに分けられる。

人格・性格の適性

人格・性格の適性として以下のような点が挙げられる。(1)問題に対して柔軟に対応できる。(2)好奇心・探究心が強い。(3)明るい。(4)落ち着きがある。(5)物事をプラスにとらえる。

これらは教職に限らず、一般的に組織で働く人間として必要な適性になるだろう。どのような組織であれ、上記のような適性を備えた人間を採用したいと人事担当者は考えていると思われる。

教職としての適性

教職としての適性は以下の点があげられる。
(1)教育に対する情熱と熱意がある。(2)他の教員と連携できる協調性がある。(3)学習者のニーズを理解できる。(4)説明や指示を明確にできる。(5)教科外活動(部活など)に対する意欲がある。

これらの適性は、すべて大事であるが、「問題に対して柔軟に対応できる」ことや「教育に対する情熱と熱意がある」ことなどが教員採用の時には、非常に重要視されている。

英語教員特有の資質能力

英語教員特有の資質能力は、英語力と英語教授力(英語を授業する力)で構成される。

英語教員として必要な英語力

文科省が2003年に策定した「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」では、英語教員が保持しておくことが望ましい英語力の目標数値は、英検準1級、TOEFL 550、TOEIC 730であった。

このように英語力は比較的に数値化しやすい。次に述べる英語教授力は抽象的な言い方しかできない面がある。

英語教員として必要な英語教授力

英語教員としては、さらに、英語教授力も必要である。英語を教えるためには、学習指導や言語に関する知識、文化に関する知識、教授法に関する理論と技術など様々な分野に関する知識があり運用する技術が必要である。

学習指導に関する技術

(1)授業の目的を適切に定めることができる。(2)授業に必要な補助教材やタスクを適切に作成できる。(3)わかりやすい授業が展開できる。(4)生徒の興味・関心を引く話題や特技を持っている。

学習者に関する知識と教養

(1)生徒のニーズに関する知識があり、授業の計画に役立てることができる。(2)学習者に応じて、適切に教材を選択したり、選択したり、補助教材を作成したりできる。(3)学習者の英語の役割を認識して動機付けを喚起し、維持するのに有効な方法について知識があり、知識と教養がある。

英語教授に関する知識

(1)学習指導要領について知識がある。(2)英語の語学的知識がある。(3)英語教授法や教授理論について知識がある。(4)4技能について知識と技術がある。(5)英語のテストと評価に関する知識がある。

英語教員の成長

教員は一生の仕事であり、専門職として生涯勉強を行うことが大切である。英語教員として成長してゆくために以下の点があげられる。

  • 教員として人間的な成長を常に心がけること
  • 常に自分の英語力に磨きをかける努力を怠らないこと
  • 英語教授力を高めるために専門知識を増やし、指導技術を向上させること
  • 常に自分の経験を省察することで授業力を高めていくこと

そのための具体的な活動として以下の点が挙げられる。

  • 英語教育に関する書籍を読む。
  • インターネッ卜で教材や授業実践例を収集する。
  • 『英語教育』などの英語教育専門雑誌を定期購読する。
  • 講演会やワークショップに参加する。
  • 英語教育に関するメーリングリストに参加する。
  • 同僚と授業方法や教材についてアイディアを共有する。

省察(リフレクション)の重要性

近年、教員の学びのあり方として、講師から理論や指導技術を学ぶという、知識技術伝達型モデルから、個々の教師が、省察を重視し、既存の理論と経験を照らし合わせながら、各自の理論を構築していく過程重視の省察型モデルへと転換してきている。

省察を促す方法として、英語教授法に関する学術誌などを用いて、経験を振り返り、経験から意味を取り出すことによって、教員自身と本人の教えることに対する理解を深める方法がある。さらに、アクション・リサーチでは、教員自らが課題を選択し、授業への内省と実践を繰り返しながら授業を改善していく方法がある。

省察は本来個人的な営みであり、学校という環境の中で、個々の教員が、学習者と向き合いながら、日々の実践を通して自分を見つめることである。しかし、1人で 省察を行っていると、壁にぶつかったり、自分の殼を破れないことがある。

そこで、教員が支えあう学びの共同体を形成することが重要となってくる。具体的には、教員同士がそれぞれの実践について語り合ったり、定期的に相互の授業観察をして、教員同士の対話を行うことで、協働的に省察を深めることができる。また、初任教員には中堅・指導教員がメンタ一として関わり、省察を促す役割を果たす。

専門性向上のためのポートフォリオ(Portfolio)

ポートフォリオとは

ポートフォリオとは元々、書類人れやファイルを意味する。日本では、主に 「総合的な学習の時間」の評価法として導入された。ポ一トフォリオ評価では、 児童や生徒が作成した作文、レポート、作品、テスト、活動の様子がわかる写真やVTR、自己評価の記録と教師の指導評価の記録などをファイルに蓄積して整理する。ポートフォリオ作成を通して、子供の自己評価を促し、また、教員も子供の評価を行うことができる。

ポートフォリオは教員の自己教育にも有効であり、教員のポートフォリオは「テイーチング・ポートフォリオ」と呼ばれることが多い。教員にとっては、生徒や学生に現れつつある能力や知識の省察を促して、学生の教えることに対するより真正な評価が可能になる。

ポートフォリオの分類

ポートフォリオには大きく分けて、評価のためのポ一トフォリオと成長のためのポートフォリオがある。評価のためのポートフォリオは,教育機関が出す資格や免許取得レベルに達しているか教員の力量を評価することを目的としたものである。評価は機関の指導者が示すポートフォリオの作成のガイドラインに従う。ポートフォリオに含めるものは、実践授業のビデオ、授業関連資料、同僚、生徒などによる授業評価、生徒に関する資料である。しかし、日本において評価のためのポートフォリオはほとんど活用されていない。

成長のためのポートフォリオは、ポートフォリオ作成の過程で、省察が促されることが最も重要である。ポートフォリオ作成に取り組むことで、頭の中だけで思い出すだけでなく、自分の教育実践を対象化し、客観的に分析・整理できる。また、ポートフォリオを用いて他者と意見を交わすことで、新しい視点に気づいたり、多角的な自己分析を行うことができる。

学生には大学在学中に作成したレポートは保存しておくように述べてある。一覧表として見ることができればそれらは立派なポートフォリオとなる。場所を取るなどの問題点があれば、近年はレポートなどはパソコンで作成するのであるから、データ化して一括して保存することもできる。それらをポートフォリオとして保存することもできる。

授業の評価と改善

個人または同僚と協同して授業を振り返り改善していくために、計画、実践、評価、改善(PDCA : Plan-Do-Check-Action)のサイクルで考えると実践しやすい。

授業を計画する際に、前回の授業を振りかえり、課題に気づきその解決策を考える。授業の実践中は、メモ帳を持参して、生徒の様子を観察し気づいた課題を書きとめる。授業後には今回の授業を振り返り、課題に気づきその解決策を考える。

  • 生徒や授業に関する課題として、以下のような例が考えられる。
  • 生徒の興味・関心を把握しているか。生徒の興味、関心を引き出す導入(活動)の工夫がされているか。
  • 生徒の緊張感、集中心を維持できるように工夫や指導がなされているか。
  • 生徒の発話に対して、適切なフィードパックができているか。
  • 生徒への発問の内容や意図は明確か。
  • 各活動の時間配分が適切か。

理論に照らし合わせて、授業を振り返ることも有効であるが、以下のように 生徒からのフィ一ドパッククや学習成果も振り返りの参考にすべきである。

  • 生徒からのフィードバックや学習の成果に基づいて、授業を批判的に評価し、状況に合わせて変えることができる。
  • 日常の授業で生徒を観察するのみならず、生徒に授業についてアンケート調査し、なぜ理解できなかったのか原因を分析する。
  • 成果については、定期テストにおいて、生徒が点を取れなかった箇所を確認して、授業のどこに問題点があったのか確認する。

その対策として以下のようなことが考えられる。

  • 活動の時間配分を変える。
  • 活動の難易度を変える。(例:生徒がペアで話す活動に積極的に活動してい なかった場合、話しやすいテ一マに変更したり、会話の雛型が書かれた補助プリントを作成する。)
  • 活動の内容を変える。(例:生徒の読む力がついていない場合、教えていな かった語彙の推測やスキミング、スキャニングなどの読解ストラテジーを教える。)

個人の振り返りに関するものであっても同僚と協同して振り返る方が望ましい。職員室で、先輩の先生や同僚の方に相談することが望ましい。

参考文献:JACET教育問題研究会『新しい時代の英語科教育の基礎と実践』三修社

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