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試験問題にピアジェの発達段階説を紹介して英語教育との関連性について述べよ、という趣旨の課題を出した。ここで、一人の学生の答案を紹介する。いくつか私の方で修正をしてあり、学生の解答そのままではないがここで披露したいと思う。学生が念頭に置いているのは、幼稚園から小学校低学年の子どもたちへの英語教育、英語活動のようだ。
ピアジェの発達段階説は、子どもは成長するに従ってその思考に質的な変化が起こるとされ、誕生から青年期以降を、0歳~2歳は『感覚運動期』、2歳~7歳は『前操作期』、7歳~12歳頃を『具体的操作期』、青年期以降を『形式的操作期』という4つの段階に分けるというものです。
前操作期の子どもは実物とは異なるものを使って実物を表す活動、『象徴活動』を始めます。例えば『ごっこ遊び』などがよく見られます。エプロンをつけ母親の様子を真似たり、枯れ葉をご飯に見立てて「おいしいごはんができました」などと言ってくるのもこの時期です。
『自己中心性』もこの時期の子どもの特徴として挙げられます。これは子供の『自分の視点が唯一絶対的なものであり、他の人の視点を考えることができない』という特徴を指します。つまり自分が見たり、感じたり、考えたりするのと同じように他の人も見たり、考えたり、感じたりするだろうと思い込む傾向があり、『相手の立場に立ってものを考える』ということが認知的に難しいのです。
更には『アニミズム』という考え方もこの時期の子どもたちの特徴として挙げられます。これは『無生物にも自分たちと同じように命や意識がある』と考える傾向で、自分の視点で物事を考える子ども達に生まれる特徴的な考え方です。空想と現実の区別がつかず、夢やおとぎ話の中での出来事は実在すると信じています。
子どもたちの特徴的なこれらの思考を踏まえて、適切な言語学習となると、言語を形式的に教えていくというよりは、例えば絵本などの『物語』を用いて様々な言葉に接していくことが効果的になります。自分の想像や夢が本当の世界だと思う子どもにとっては、空想の世界が現実の世界と同じくらい意味を持つのです。そのために、たとえ語りが英語で行われていても物語が持つ力によってどんどん話の中に引き込まれていき、物語を通して豊かな言葉を育むようになるのです。
一方、具体的操作期の子どもにおいては、前操作期よりも思考が発達し、『脱自己中心性』、つまり『人の視点に立って物事を考えることが出来る』ようになります。その説明として、ピアジェは『保存のテスト』という実験で時期による子どもの思考の違いを明らかにしています。
考える力が発達することにより、外国の暮らしや文化に対する興味や関心が増大します。この時期の子どもたちにおいては前操作期のように物語で言語を習得させるよりは、もう少し発展して専門的な知識を交えて言語習得をさせる方がよいでしょう。