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私は生活言語能力(BICS)と学習言語能力(CALP)の違いは重要だと思っている。英語教育の狙いとして、BICSまでかCALPまでかによって授業の組み立てが異なってくる。大学教育の場ならば、たとえば、英語学科の学生ならば、CALPまで目指すが、それ以外の学部生ならば、BICSを狙うということでもいいだろう。ただ、学生が専門的な英書を将来に読む予定ならば、CALPの段階まで英語を理解しなければならない。そんなことを考えているので、私は毎年学生にこの両者の違いについて試験に出している。これは、私の好みの試験問題だ。以下二つほど答案を紹介したい。


学習言語能力と生活言語能力はどのように異なるか説明しなさい。

まず、日常生活をこなすレベルの言語力を「生活言語能力」(Basic Interpersonal Communication Skills: BICS) と呼び、学問をする時のように論理的に考える能力を「学習言語能力」(Cognitive Academic Language Proficiency: CALP) と呼びます。日本人の子供ならば、日本語に関して、だいたい10歳ぐらいでBICSは完成するし、中学生以降はCALPの習得に向けて全力投球となる。BICSとCALPを区別することは大切です。

小学校の教員が教室に外国からの子どもを迎え入れることがある。その子どもは、数ヶ月で日本語の発音を習得して、友達とは日本語を普通に話せて、もう日本語を習得したように見える場合があります。そのような外国人の子どもであっても、教室での先生の講義や教科書が全く分からないという例もあります。これは、生活言語能力は備わったが、学習言語能力はまだ備わっていないからです。その意味では、外国人の子どもの言語能力がどの程度であるかを見極める必要があります。

外国からの子どもたちは、「生活言語」レベルの日本語は比較的早くに達するが、書きことばの修得とも関連する「学習言語」の修得には苦労することが多いです。どの言語の母語話者でも初等教育・中等教育の9年間、あるいは12年間をかけて、やっと書き言葉の基本を身に付けていくのです。学習言語能力(CALP)の習得には、日常会話ができるレベルの生活言語能力(基本的対人コミュニケーション能力、BICS)を習得するために要する時間の、さらに何倍もの時間をかけて学習しなければならないのです。学習言語能力を身につけることで、目標言語を深く理解することができるようになります。学習言語能力は「書き言葉」と深く関連する。そのために、目標言語で書かれた文をたくさん読む必要があります。真に理解したかを見ていくためには、どうしても文法訳読式に頼らざるを得ない部分があります。同時に、目標言語を用いて学問の内容に関する受け答えができるようになる必要があります。


(7)学習言語能力と生活言語能力はどのように異なるか説明をしなさい。

学習言語能力とは、学校で抽象的・概念的学習により習得する、教科学習に必要な認知・教科 学習言語能力のことである。生活言語能力とは、日常生活で具体的な事物・事象と関連して習得 する、対人関係におけるコミュニケーションの力のことである。 人の言語能力は、日常生活でコミュニケーションをする際に使用する「生活言語能力」と、教科 学習に必要な「学習言語能力」に分けられる。 外国人児童が日本語を流暢に話すようになると、もうその言語が習得されたと誤解してしまいが ちだが、それは日常的な生活言語能力に過ぎず、教科に必要な学習言語能力が必ずしも身に付い ているわけではない。言葉をすぐ覚えたとしても、言葉が指す概念や内容を理 解することは学習言語能力にあたり、理解に長い年月を要する。


コメント

最初の答案は、小学校の先生が初めて外国人の子どもを迎えて時に生じることなどを書いてあり、参考になる。次の答案は、簡潔に書いてあるが、これで十分であろう。

なお、CALPとBICSの訳語であるが、いろいろとある。ネットで調べると、生活言語と学習言語、伝達言語 能力と認知・ 学力言語能力、日常言語能力と認知学習言語能力、対人伝達言語能力と認知・学習言語能力などがある。どの訳がいいのだろうか。私は深く考えることもなく、学習言語能力と生活言語能力という訳語を使ってきているのだが、他に適切な訳語があったら、それにしたいとは考えている。

私の次のブログも参考にしてほしい。

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