2016-05-10
1980年代はバブル経済の絶好調の時代であった。わが国ではこの力を維持し、さらに国際化を進めるために国民の「英語のコミュニケーション能力」が必要であるとの認識が政界・経済界から生じてきた。当時の中曽根首相直属の臨時教育審議会の第2次答申「時代の変化に対応するための改革」の第1章「国際化への対応のための諸改革」で、「英語教育の開始時期についても検討を進める」(臨時教育審議会 1986)と述べていた。その言葉が「小学校への英語教育導入」に関する最初の公式な文言のようであった。
この答申を受けて、文部科学省は具体的な検討を始め、1992年(平成4年)に大阪の2つの小学校を初めて「小学校英語教育の研究開発」に指定した。それ以降の8年間に、全国全ての都道府県に「研究開発指定校」(63校)が拡大した。当時は、英語が小学校に正式な科目として位置づけられるのは確実であり、1998年の学習指導要領ではその旨がうたわれると予想されていた。
しかし、このころから学界などでは、慎重論が唱えられるようになり、政府はそのことを考慮に入れて全面的な導入は行われなかった。
1998年(平成10年)に告示された小学校学習指導要領では、教科としての導入は見送られ、新設された「総合的な学習の時間」の枠の中で「国際理解に関する活動」の一環として「英会話」を実施してもよいという表現であった。具体的には以下のような表現である。
総合的な学習の時間(抜粋)
第1章 総則
第3 総合的な学習の時間の取扱い
1 総合的な学習の時間においては、各学校は、地域や学校、児童の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。ねらい
3 各学校においては、2に示すねらいを踏まえ、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
配慮事項
(3) 国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは、学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。
この当時の指導要領では、国際理解教育の一部として外国語会話を行うことになっている。つまり国際理解・慣れ親しむ>スキルの習得という図式である。この不等号の向きが次第に逆向きになっていくのである。