2016-05-12 Krashen には有名な5つの仮説がある。それらを見ていこう。
The Acquisition – Learning Hypothesis
The Acquisition – Learning Hypothesis とは、成人において、第二言語を発達される方法は二つあるという仮説である。一つは文法などを意識的に学ぶ「学習」Learning であり、一つはコミュニケーションのために言語を無意識に覚える「習得」Acquisition がある。子供たちが母語を習得していくのは、後者の方法であり、実際の言語使用場面でその言語を理解したり使用することによって能力を伸ばしていく。
Krashenは、Acquisitionは必ずしも子供の時にだけできることではなく、成人もまた、正規の学習以外の方法で言語をAcquisitionすることができるとしている。
The Natural Order Hypothesis
The Natural Order Hypothesis とは、言語の習得には一定の順番があり、それが逆になることはめったにない。この仮説によると、英語を第二言語として習得していく人は、第一言語が何であるかにかかわらず、また何歳であろうとも、A→B→C→D の順序で形態素を習得していく。それぞれのグループ内の形態素の習得順序は入れ替わることがあるが、A→B→C→D の順序は決して入れ替わることはない、と述べている。とりわけ、教室外での習得には普遍性がある。なお、A,B,C, D は下に示されている。
A:進行形、複数形、連結詞(主語と述語をつなぐ語;be,become,seemなど)
B:助動詞、冠詞
C:不規則過去形
D:規則過去形、3人称単数現在形(-s)、所有格(’s)
関係代名詞の習得の順序も以下のように(1)→(6)の順序、主格から比較級の目的語のように複雑になってゆく。
(1) Subject: The man that kicked the dog is my father.
(2) Direct object: The tree that the man cut down is very old.
(3) Indirect object: The man that she cooked the cake for is my father.
(4) Object of preposition: The house that she lives in is very old.
(5) Genitive: The dog whose owner has died is barking.
(6) Object of comparative: The man that I am richer than is jealous.
これらから、教科書は文法事項は見た感じで単純なものから複雑なものへ配列されるのではなくて、The Natural Order Hypothesis に沿うような形で並べられることが望ましい、という提案が行われることがある。
The Monitor Hypothesis
The Monitor Hypothesis は、Acquisition によって得た言語の知識は、左脳の言語野に貯えられる。そこで言語活動は自動的・無意識的に処理される。ところで、Learning で得られた言語の知識は、同じく左脳に蓄えられるが、必ずしも言語野に貯えられるわけではない。その機能は、発話が文法的に正しいかどうかをチェックする働きだけである。
彼の考えでは、Learning は単にmonitor の働きをするだけとするが、この点は他の研究者から批判されている箇所でもある。
The Input Hypothesis
The Input Hypothesis は、学習者の現在の力(これをi)とすると、これより少し程度の高いインプット(i + 1)に触れることで学習者の理解(comprehensive input)がもっとも進むという考えである。インプットのレベルが低すぎれば進歩がなく、逆に高すぎればインプットは理解されずに習得されない。
幼児の周囲にいる大人は、その幼児の理解できる言語レベルを若干上回るぐらいの単純化された幼児用語(幼児の世話をする人の言葉という意味でcaretaker speechと言う)で話しかけることで、幼児は言語レベルを伸ばすことができる。
参考(http://chrisallenthomas.wikifoundry.com/page/Teacher+Talk+vs.+Foreigner+Talk+%26+Caregiver+Talk) ゆっくりと、分かりやすく、声を大きくして、やさしい単語や文法で話していく。
L2 Teacher talk: the language used by teachers while addressing their students. Heath (1982) also shows that among white teachers, caregiver talk carries into the mainstream classroom.
Foreigner talk: the language used by native speakers while addressing non-native speakers
Caregiver talk: the language used in addressing young children
The Affective Filter Hypothesis
The Affective Filter Hypothesis とは、Acquisition を妨げる心理的障害を「情意フィルター」と呼ぶ。そこで学習者が不安を感じないような学習環境を作る必要がある。その心理的な条件を決めるものとして、3つの要素がある。
① 動機…学習者の動機が高ければ高いほどフィルターは低くなるので、Acquisitionは成功しやすくなる。
② 自信…学習者が自信を持ち、自分自身にいいイメージを持っている場合、フィルターは低くなり、Acquisitionは容易になる。
③ 不安…学習者が、不安な気持ちを有している場合、フィルターは高くなり、Acquisitionはスムーズに行われない。
なお、幼児では、情意フィルターが極めて低いので、習得のスピードが高いことになる。
おわりに
Krashen のこれらの説は、あくまでも仮説である。これらの仮説が妥当かどうかについては研究者たちが論争をしている。ただし、彼の仮説が言語教育に相当な影響を与えたことだけは否定できない。