2016-08-02
英語の音声とは何か?まずどこの国の音声を指し示すのか。それは日本人の立場から「英語の音声」とは何か、ということになる。
一般にはアメリカ人やイギリス人の話す英語の音声を指すと考えられている。アメリカ人はアメリカ国内で使うのがほとんどであるから、アメリカ英語が英語の音声と言えるだろう。イギリス人はイギリス国内で使うのがほとんどであるから、イギリス英語の音声が英語の音声ということになる。
日本人に必要な英語の音声とはどんな音声になるか。日本語の個別の音の数は、母音が5つ、子音が14と言われている。英語では、母音が15,子音が24と言われている。日本人からすると、英語話者はたくさんの音声を自由に駆使してすごいなと言う感想を持つかもしれない。しかし、これは幼い頃からの慣れであって、特にどちらがすぐれているということはない。とにかく音韻体系が異なる英語という言語を利用して、日本人はコミュニケーションを図ろうとする。そのときには、音の数が多い点は日本人には困った問題となる。
ところで、我々が外国人と英語を介してコミュニケーションをするのであるが、アメリカ人と英語を使うよりも、タイ人と英語を使う、ドイツ人と英語を使う、中国人と英語を使う、このように非アメリカ人と英語を使う方が多いだろう。
英語は国際共通語となっているので、英語の第一機能とは、世界の様々な人とコミュニケーションするために、英語を使うのだ。人口比で考えると、英語圏の人よりも、非英語圏の人の方の数が多いので、日本人が英語を使う目的はこのように、非英語圏の人とコミュニケーションすることが第一となる。
やや古い資料だが(David Crystal)、人口に関しては第一言語として話す人が3億5000万前後で、第二言語や外国語として話す人が15億人いるとの推定があった。
これらの事実を見逃してはいけない。すると英語の音声とは世界の人々が話す英語の音声の総体を意味することになる。一言で言うと様々な変種が存在するということだ。なお、変種という言い方は、特にネガティブな意味合いはなくて中立的に使っている。たとえば、アメリカ英語は標準変種という言い方をしているのだ。
次は英語教育の場ではどうするのかという問題になる。あるいは英語をこれから学んでいく学習者はどうするかという問題になる。つまりモデルとしてどの英語を提供するかということだ。たくさんの様々な発音がありますよ、では、学習者は困ってしまう。発音の目標としてどの英語を示すのか。
現代はアメリカ英語が標準とされている。もっとも威信の高い言語と考えられている。しかし、第二次世界大戦の前までは、イギリス英語がもっとも威信の高い英語とされて、人々はそれを真似しようとしたのである。つまり政治的に軽勢的に文化的にもっとも高い地位にある国の英語を真似ようとするのである。
もしも、中国が次の世紀にもっとも成功した国になるのであれば、中国語風になまった英語がもっとも威信の高い、つまりカッコイイ英語になるのである。たとえば、日本語には日本語風の音声体系がある。しかし、最近の若い人の音楽は、日本語の音声の仕方をわざとアメリカ英語の風に発音しようとする。「ぼおくうーうは、けーめえがすうーき」という風な発音で歌うのである。アメリカ英語風の発音はかっこよいのである。これはアメリカ英語風であることがポイントで、誰も中国語風とか韓国語風には歌わない。つまり、日本では、現段階では、中国語や韓国語は真似をして、歌い方を変えるほど威信のある言語とは思われていないのだ。
さて、世界の様々な英語を英語教育の場でどのように考えるかである。小学生や中学生の段階では、様々な英語を教えるのは混乱するから避けた方がいい。現代では、もっとも真似すべき英語はアメリカ英語となっている。
言語習得が理論が教えるところでは、幼児期のうちに英語のシャワーを浴びないとネイティブのような発音は難しいと言われている。おそらく日本の小学生や中学生がネイティブのような発音を持つことは難しいであろうから、それには限度があることを教えておくことはいいだろう。つまり、目指すは「理解されうる英語」を話すことだということだ。そのためには、日本人が特に気をつけなければならない5つの音を自覚することである。それは、/r/ /l/ /θ/ /ð/ /v/の5つの音である。これらをきちんと発音できて、理解できるようになることで、限られた音声しか馴染みのなかった日本人でも自分の音声に関する能力を上昇させることが出来る。
さて、ALTだが、世界の様々な人の英語に触れるという意味で、役に立つ。英米文化だけが外国の文化ではなくて、さまざまな文化を背景にする人がいることを知らせるべきだろう。小学生には発音に関するモデルをたくさん提示しない方がいいという考えならば、アメリカ英語を話すALTだけを招くことになるのだが、ALTには発音のモデルと言うよりも、さまざまな異文化の存在を示すモデルという意味がある。その意味では、「なまった」発音のALTも必要である。
高校生や大学生に対しては、本格的に、世界の様々な人の英語を聞かせるといいだろう。授業でも「国際英語」とか「アジア英語」というような英語の授業があってしかるべきだろう。受講者は自分が将来どの分野で活躍するのかによって、たとえばシンガポールを本拠地にして活躍したいならば、アジア諸国の英語を勉強していくことは理由があることである。