教育実習を行うことで学生は免許状取得に向けて大きく踏み出すことになる。自分の経験をもとにして語ってみたい。
自分は会社員の時代に教員になりたいと考えた。しかし、教員免状を持っていなかった。それゆえに、まず教員免状を取ることにした。ある大学の通信教育の課程を受講することにした。そして、それは順調に取れたのだが、問題は教育実習をどうするかであった。通信教育を受けている大学には付属の中学校と高校があった。通信教育を受けている大学の説明会には登録した人がたくさん来ていた。そして、そこで係りの人が付属の中学と高校で実習を希望する人は何人ぐらいかと尋ねたら、たくさんの人が手を挙げた。係りの人は驚いて「そんなに受けれませんよ」と絶句していた。
自分はそれを見て、遠くにあったが、母校の中学校に行って行うしかないなと感じた。中学校に行って、教頭先生に面談をして事情を話して教育実習を引き受けてもらった。実はかなり押し迫っていて、本来ならば、「翌年申請に来るように」と断られてもしかたがない場面だったが、必死でお願いをして数か月後の教育実習に加えてもらった。40年も前の話である。現代は介護体験も必要で、よほど計画をたててきちんとしておかないと日程的に無理である。当時は、いろいろと融通が利いて、ある意味ではありがたい時代であった。
実習校からお借りした教科書を自宅で調べていた。そして、やや緊張して教育実習の初日であった。一緒に実習を経験したのは、大学4回生のやや気の強そうな融通の利かなそうな女性であった。私は当時で20代の半ばだったので、社会人経験者として、私は初めから大人扱いをされた。
数日ほど授業観察をして、すぐに授業を始めるようにと指示があった。当時、塾で英語を教えはじめていたので、教え方でそんなに迷うことはなかった。いくつかの失敗はあったようだ。It を自分は癖でイッツと発音してしまう。イットとするように指摘されたが、どうも未だに直らない。それから、小テストを作るときに、You don’t have to go to school. = You must not go to school. という内容で試験問題を作ってしまった。これは失敗だった。You don’t have to go to school. = You need not go to school. であった。若い男との先生(社会と英語を教えていた先生)が私がいた部屋に、飛び込んできて、遠回しに注意をしてくれた。(本当はコイツメと思っていたのだろう)。これは忘れられない経験であった。
また、upstairs を「二階」と生徒たちに説明したことがあった。私は文脈から「二階」と訳してもいいかと思ったが、担当の先生は「階上で」と訳すべきだと注意してくれた。それぞれが懐かしい思い出である。
私は直前まで会社員をしていたので、学校と会社の雰囲気の違いに驚いた。会社は上司がいて、いろいろと命令がくる。それに従って仕事を行う。結構ストレスの掛かる仕事である。中学校は教員の一人一人が一国一城の主である。その点は自分で采配が振れてやりがいのある仕事である。しかし、現代は多くの学校で先生の仕事量は増えて、ノイローゼになる先生もいると聞く。やはり、自分には40年前の学校のややのんびりした雰囲気が懐かしい。
最後の日は、英語科担当の教員が集まって研究授業の評価をしてくれた。一人、細かく批評してくれた女の先生がいたが、他の先生は私がもう社会人だからだということで、そんなに手厳しい評価はしなかった。
とにかく免許状が取れて、その夏には採用試験を受けることになり、何とか採用に至った。自分が会社員時代から教員免許状を通信教育で取り、教育実習を何とかこなし、それで採用試験を受けて採用と自分の人生の転換期であった。何とか歯車がうまく回ってくれたので、よかったのだ。