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ピアジェとは?

ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)は、スイスの発達心理学者である。彼は、発生的認識論(genetic epistemology)を提唱した。

発生的認識論とは、人間の認識の発達を (1)知の個体発生としての認知発達と、(2)知の系統発生としての科学史の、両面から考察する考えである。人間の認識は,人類が科学的な知識を積み重ねてきたように,個人の成長の過程の中で、知識を積み重ねることによって発達してくると考えた。つまり、人間の認識の発達を科学の発達(科学的史)のメタファーとしてとらえようとしている。

乳児の認識は

乳児は自我意識を待たず、主体と客体を区別することが出来ない。乳児にとっては、主体と客体が未分化であり、身体によって無意識的に中心化されている。
乳児の活動は自分自身の身体を直接客体に結び付けており、それぞれの活動(吸う、凝視する、把握する、など)が別個に存在していて、それらを関連づけることが出来ない。共通の唯一の基準は自らの身体である。

自己中心性という用語がよく使われるが、主体と客体を区別できないために、自分に特有な象徴化パターンにより、すべてのものを把握、表現しようとしたりすることである。さらには、自分の視点からの見方、自分の知覚情報のみですべての状況を認知することである。その時は、他者の視点や立場にたって考えられない。これはこの時期の幼児の特徴的な思考様式である。

この初期の段階から1才から2才までの間に乳児はしだいに視点が広がっていく。これは脱中心化と呼ばれている。

1・活動を自分の身体から脱中心化する。
2・自分の身体を他の客体の一つとしてみなす。
3・自分を運動の生じさせる主体・客体であると認識しはじめて、主体の共応効果のもとに客体の諸作用を結び付ける。

このような幼児の認識の発展の段階を段階的に説明しようとした。

子どもの4つの発達段階

ピアジェは、知的能力の発達を、認知構造と認知操作の違いから、次の4つの発達段階に分けた。この4つの発展段階は個人差があるので、年齢区分はあまり重要ではないが、発達の順番は普遍的で絶対的であると考えた。

  • ①感覚運動期(0~2歳)
  • ②前操作期(2~7歳)
  • ③具体的操作期(7~12歳)
  • ④形式的操作期(12歳以降)

①感覚運動期(0~2歳)

生後0~2歳までに子どもは、外界にあるものを見たり触ったりする。それによって、外界にある物の存在を自分の感覚を通して受けとめ、運動的な働きかけをすることで認識する。認知発達の第一段階では、自己と物、自己と他者が未分化な状態から始まるのだが、これらの行為を繰り返すことで、次第に客体の存在を認識するようになる。

また、具体的な行動を通して目的と手段との関係を理解して自己の手などを使用するようになる。「対象の永続性」(object permanence)についての理解が進む時期であり、外界に関する物などは、自己の知覚や運動が中断されても、それとは独立してそれ自体で存在し続けると認識する。

②前操作期(2~7歳)

2歳以降になると、幼児は急速に言語を獲得し始める。それに伴い、シンボル機能も活発に働き、イメージや表象を用いて考えたり行動したりできるようになる。しかし、まだ論理的な思考ができず心的な操作(内部でイメージを用いたり、言語を利用して正しい処理がされること)が不完全である。従って、この時期の特徴は、見かけにとらわれやすい(保存性、保存課題)、自己中心性、アニミズム的思考などが見られる。

象徴的思考:幼児期の思考段階で、2~4歳頃までは客観的根拠のない「象徴的思考」がメインである。象徴活動の例として、「ままごと」遊びなどが挙げられる。砂場で砂で夕飯の支度の真似をする。

アニミズムと実念論:アニミズムとは、生命のない事物・事象に対して、それらはすべて生きていて意識のある存在であるという考えのことである。「お人形さんが泣いている」のように言ったりする。空想と現実の区別がつかず、夢で見たこと、お伽噺などを実際のことと考える。

直観的思考:4~7歳頃では言語機能は発達するが、概念(知覚できない一般的な概念)を用いた論理的思考はできない。そこでは、知覚した事物を中心に考える「直観的思考」が中心となる。

自己中心性:自己中心性とは、自分の視点が唯一絶対的であるという考えである。つまり、自分を他者の立場においたり、他者の視点に立つことができないという認知上の限界がある。前操作期の幼児は、他者の視点や立場から物事を考えることが難しいので、そのことを特徴付けて「自己中心的段階」と呼ばれる。(なお、自己中心性と利己主義とは無関係である)。

保存性:保存性は、対象の形を変化させても、対象の質や量といった性質は変化しないという概念である。保存課題とは、前操作期の子どもに2つの容器に同じ量の液体が入っていることを確認させた後、1つの容器の液体を底面積が小さく背の高い容器に移し替え、どちらの液体の量が多いか尋ねると、背の高い容器を選択する。これは、見かけに惑わされているということで、保存性を認識していない。

③具体的操作期(7~12歳)

前操作期(直観的思考期)の児童は、10個のおはじきの並べ方によって、数が多いと思ったり少ないと思ったりする。しかし、具体的操作期の児童は、7個のおはじきを長い列にして並べても(B)密集して並べても(A)、両者が同じ7個の数であることを理解することが出来る。 A ○○○○○○○○  B ○ ○ ○ ○ ○ ○ 

これを保存性の概念という。この時期は、保存性の概念を獲得し、見かけに左右されない論理的な思考が可能になる時期である。前操作期の特徴は自己中心性であるが、それにとらわれず、実際にものを動かしたり、指で数えるといった具体的な行動・操作によって論理的な思考ができる。他の例として、おはじきは、右から数えても、左から数えても同じである。広げても狭く並べても同じである。丸く並べても、四角に並べても数は同じである。 などが理解できるようになる。

それぞれの保存性の発達は異なる。『数の保存』は6~7歳頃に、『量・長さの保存』は7~8歳頃に、『重さの保存』は9~10歳頃にできるようになってくる。

小学校の入試問題:「象のかばんはラクダのかばんより軽い。クマのかばんはラクダのかばんより重い。それでは一番軽いかばんは誰のかばんですか?」と言う問題が解けるようになってくる。

アニミズム:アニミズムを克服するのは、具体的操作期の最終段階で、すべてのものに生命→動くものだけに生命→自分で動くものだけに生命→生物だけに生命、という順に認識する。

脱中心化:この時期の重要な特徴は脱中心化である。これは、自己中心性からの脱却で、多様な視点の存在に気づき、他者の視点からも対象を認知できるようになる。

具体的操作期の子どもには、抽象的概念を用いた推論を行うことはできない。以下のようなことができない。

  • ①事実に反することについて予測できない。– もし人間が未来を知ることができたら,今より幸せだろうか?
  • ②抽象的概念が理解できない – 「力」「慣性」「トルク」「加速度」  – 「生きる意味」「愛」
  • ③ 計画的に順序よくものごとを比較できない→いきあたりばったり

概念操作の精緻化が進む。クラス概念の形成が可能になる。加法的分類:生物=動物+植物。乗法的分類:「丸い形」かつ「色は黒」ができるようになる。しかし、これらは具体的なものの分類であり、抽象的なものの分類は行えない。

④形式的操作期(12歳~)

具体的な現実に縛られることがなく、抽象的・形式的に考えることができるようになり、抽象的な問題解決も推論も行うことができる(形式的操作)。

具体的操作期においては、思考が具体的な出来事に基づいてなら論理的思考が可能であるが、この形式的操作期においては,思考が現実の具体的な出来事の内容や時間的な流れにとらわれないで思考することができる。

言語によって内容をあらわした命題について、内容が現実かどうかにかかわらず、論理的・形式的に考えることができるということで、これを命題的操作(propositional operation)という。→神が~である、というような思弁的な操作ができるようになる。

問題例「前操作期」と「具体的操作期」を対比させて説明せよ

 解答例:前操作期と具体的操作期の大きな違いの一つに保存性の有無があげられる。前操作期においては水の移しかえの問題などでは見えに左右され、一つの視点からしか捉えられず保存性がない。具体的操作期になると、見かけに左右されなくなり、具体的な内容であれば論理的な思考ができるようになり保存性の説明もできるようになる。
 また、前操作期には実際に目の前にないもの(表象・イメージ)を使っての推論や他者の視点に立つことができないが、具体的操作期にはそれらができるようになる。

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