5.英語教員
5.1 教員の意識
小学校では英語の好きな教員はどんどん英語活動をおこなって、他の教員たちにもっともっと研修をすべきと主張する。これに対して、苦手な教員は逃げ腰になる。このような現象が小学校の教育の場で見られる。教育活動は教員全体が同じ方向・同じ意識を持つべきであるが、外国語活動では、教員の方向性はなかなか一致しない。外国語活動の担当は、誰もやる人がいないために無理矢理やらされたと感じる教員が大半である。小学校の現場では、特に職員室でよく聞こえてくるのは、突然導入された英語教育に対しての当惑であり、特に中年になってから任された人は非常に困惑している。専科の教員に任せてしまいたいと考える人も多いようだ。それに対して、英語に関心が持てる教員、若い教員の中には積極的に取り組もうとの姿勢も見られる。このように教員の対応がバラバラなままで英語教育に取り組んでいるのは大きな問題であろう。
文科省の指針では、英語の指導を行うのは担任のみというたてまえだが、現実では、担任のみでまかっているクラスは少数であろう。ALTや日本人の講師による手助けが必要である。ALTや講師が来ない週は担任がやることになっているが、これは担任にとって大きな負担になっている。それは、大変な労力を必要とする。準備もさることながら、突然苦手な英語を話すことに躊躇してしまうようだ。たしかに、必要なのは、開き直りと慣れということであるが、実際に教育に携わる人間にとって簡単な話ではない。
また小学校教員は既に膨大な量の日常の仕事をこなしている。いくつかの教科をこなすことでエネルギーを使い果たしている。これ以上に負担が増えることは問題である。過労で精神的に落ち着けないならば、子どもへの影響がある。担任が外国語活動を何とかしたいと考えて躍起になることで、実は精神を病んでしまい、子どもに影響を及ぼしては本末転倒である。
逃げ腰の教員に対して、文科省は次のように言っている。それは「英語が苦手な日本人教員が努力する姿を子どもたちに見せることも大切である。それによって子どもたちが感化されるのである」との言葉である。しかし、それで開き直れる教員の数は少ないようである。また、日本人が担任になって教室に行くと児童のテンションが下がるという現象がある。子ども達は、日本人が教室に行くと、「あれ、Johnじゃないの」(JohnはALTの名前)という反応を示すと聞く。小学校の教員は英語に自信がない人がほとんどで、そのことが児童たちにも分かってしまう。「努力する姿をみせる」とまではなかなか開き直れないようだ。
また、外国語活動が活動であるので、そのために軽く見てしまう傾向がある。教科ではないので、その研修は必須ではない。教材研究にかける時間が教科と活動ではどうしても異なってしまう。また、管理職の意識も職員への影響を大きく左右する。英語教育への強い意欲を持つ管理職であれば、その学校の教員の意識も変わると言われている。
5.2 外国語活動は専科制か担任か
外国語活動は専科制か担任かという問題に対して、理想としては担任と考えられる。担任と児童の間は、人間関係(信頼関係)がある程度できているので、お互い良い意味での壁が低くなる。甘えが入ってかえって発話が少なくなることもあるが、担任の心持ち次第で子どもは変わると思われる。
このように英語を教えるのは主として担任とするのは現実問題としては、非常に厳しいものがある。家庭科や図工が専科制なのは準備が大変だからであり、英語はそれに匹敵するほど準備が大変である。どうしても専科制が望ましい。しかし、各学校に一人の専科の教員の配置がまだ予算的にも人員的にも可能ではない現段階では、「できる範囲で行う」ということになろう。
5.3 ALT
一般には、小学校に日本人英語講師か英語教育に関する専門的な知識を持ったALT がいて、コミュニカティブ・アプローチで英語を教えている。ここで身についた英語のやりとりは中学で再び学ぶものではあっても、小学校の段階で比較的早期に疑似体験することで、一般の中学になってからではなかなか身につかないスキルを習得できる可能性がある。その意味では彼らの存在は貴重なものである。
現状では、ALTと担任、ALTが来ない週は担任のみ、地域によってはALTと残りの時数は留学生(英語圏外)という取り組みが多い。ところで、留学生が参加するという点は、実はかなり積極的な意味を持っている。外国語活動とは英語を単に教えるのではなくて、むしろ国際理解教育を行う場として考えると、留学生が文化を紹介する授業は効果的と考えられる。もともとは外国語活動は、海外の文化を知ることが大きな目標であったからである。
一般的な話だが、ALTとの関わりは、担任の教員にとって難しい面があるいう報告がある。2人の打ち合わせの時間がないという苦情はよく聞かれる。ALTは複数のクラス(時には複数の学校)を持っているので、1つ1つクラスの特質を十分に理解することは難しい。本来ならば、担任と十分に打ち合わせしてそのクラスの特質を知ればいいのだが、その時間的な余裕がない。また担任がT1になることが建前だが、ネイティブを前に担任が英語をやるのは抵抗があるとのは当然である。とにかく、担任はALTの扱い方は迷っているだが、次のようなアドバイスがされるようだ。(HP: ALTとのティームティーチング)
質問:ALTの先生との授業中の関わり方がよく分かりません。どのようにしたらよいのでしょうか。
回答:まず、前提として学級担任がT1であり、ALTがT2であるということを認識し、役割分担を確立することが大切です。英語が不得意とお考えの先生は、ついALTの先生にすべてを任せてしまいがちです。しかし,日頃から子どもたちと接し、子どもたちの性格、学習進度や内容,生活環境などをよく理解している学級担任が授業の中心となり、主体性を発揮して授業をすることが大切です。その最大の理由は子どもたちにとってそのことが大きな安心感や開放感につながるからです。
なお、日本語を話せるALTが多いと言われている。彼らも多くは日本文化に関心があるからこそ異国の地である日本で頑張っているのである。また、ALTの教え方に問題があることがある。それはALTは英語教授法の専門家ではないことが大半であるからである。しかし、ALTが英語教授法を習得していなくても、ALTが熱意を見せるならば必死についていくことが多い。「子どもは大人の空気に強く反応する。教えるテクニックが無くても一生懸命な人にはついて行く。そうでなくてもそれなりに授業が成立する」とよく言われる。そのような積極的なALTもいれば、必ずしもそうでないALTもいて、人によって様々である。
小学校で英語を教える教員の資格をどうするか、検討されるべきである。中等教育では、文科省は、英語教員には英検準1級、TOEFL iBT 80点程度等以上を求めている。現在では、小学校で専科教員や担任にしても、どの程度の英語力を求めるか目安として明示する必要がある。
まとめると、担任には英語の知識がない人がほとんどで、また英語が嫌いな人もいて、教えることには大いに問題がある。しかし、一般に小学校教員の授業力はすばらしく、教科を通じた授業力を英語の指導に生かすことは可能であるので、そのあたりを工夫すべきである。小学校の担任は児童に対して絶大な影響力を持っているので、そこをうまく活用できるとよい。また、担任が1人で教えるのではなく、ALTや日本人英語講師などとのティームティーチングでイニシアチブを取って教えるのが望ましい。それが難しい場合では、CDや動画などの補助教材を上手に活用すべきである。なお、英語を専門に教えることができる日本人か外国人の講師が1つの学校に常に滞在していることが望ましい。
(続く)