7 私立小学校
7.1 私立小学校の英語授業について
日本にはたくさんの私立の小学校がある。それらは多くの場合、公立学校よりも英語教育の取り入れに積極的である。ここではある私立の小学校を紹介したい。関東圏にある私立小学校での英語授業数は、1〜2年生は週2コマ、3年生からは週3コマ行っている。また、4年生からは30人学級を半分に分けた2つの15人クラスに対してそれぞれにネイティブ教員1人と日本人教員1人の2人体制で教えている。非常に意欲に富んだ私立小学校の取り組みである。この小学校では、「グローバル人材育成」を掲げていて、創設以来英語教育を重視しており、カリキュラムは系列大学の英語教育学の専門家の指導案をベースにしている。
この私立学校に実際に勤務する教員の中には、過度に音声教育が強調されていると考える人もいるようだ。授業では、児童にプレゼンテーションをさせる。子ども達は、意味はよくわからない英語の雛形文章をワークシートに写し取り、なんとかスクリプトを作る。自分の言いたい言葉は、そのつど教員に聞いて意味と綴りを教えてもらい、それをスクリプトに書き加える。ただ、プレゼンテーションのために英語の発音を教員に教えてもらった子ども達は、それを音として耳で聞き取るだけになる。それがどういう意味を持つ言葉の連なりなのかを理解しないままオウム返ししているという面がある。さらに、文字は目の前にあるが、文字と音が一致しないので実際は読めていない。自分が発している英語のよりどころになるものがない。これは、児童たちにとっても目と耳の両方からの理解という点でないことが問題になるのでは、と考えている教員もいるようだ。
たしかに、この学校では、公立小学校とは比較にならないほど英語授業に力を入れている。そして、ヒアリングやスピーキングばかりに重点をおいている。しかし、本当に英語を身につけさせたいのであれば、文字も教えた方が身につくのではないかとの教員の声がある。
この学校の児童たちであるが、生徒達は多くが英語塾に通っていたり、そもそも英語に対する意識が高かったりするため、公立小学校の生徒と比べると英語能力や意識がかなり高い。ただ、授業で教員が話す英語を全く理解できていないために意欲を失っている児童や授業になかなかついて行けない児童も少なからずいる。高いレベルの英語教育はそれについて行けない落ちこぼれを必然的に生み出す構造がある点に注意すべきである。
また、英語能力が高い生徒は、そもそも塾などで英語を勉強しているため、学校の英語授業だけでどこまで児童の英語能力が伸びたのかは不明であるので、一概に私立小学校での英語教育が有効であるとは言えない部分がある。
7.2 私立中学校での英語の試験導入
朝日新聞デジタル(2015年1月1日)によれば、英語を入試に取り入れる私立中学が増えているそうである。2015年入試で英語を導入するのは、帰国生限定を除いても首都圏だけで少なくとも32校にのぼるという。小学校で英語学習が本格化し、今後さらに進むことを見越して導入が加速している。
例えば、東京都市大付属中(東京都世田谷区)は新たに英語、算数、作文(日本語)の3科目による「グローバル入試」を始める。問題のレベルは英検準2級から2級程度で、筆記のみとのことである。これらの入試は、英語に熱心な私立の小学校の存在を前提としているのであり、要求するレベルが英検の準2~2級の程度ということはかなり驚きである。この制度は、イングリッシュ・デバイドにつながるのではと懸念される。
(続く)