ワーキングメモリー(短期記憶と長期記憶)
ワーキングメモリーは学習において非常に重要な概念である。教員は学習者のワーキングメモリーを考慮しながら、授業計画を立てる必要がある。
人間の記憶は、保持時間が短くて容量も限られている短期記憶と長期に保持される長期記憶に分類されている。この短期記憶の概念をさらに発 展させたものがワーキングメモリー(working memory) である。ワーキングメモリーには、単に情報を記憶するだけでなくて、外国語の学習において、発話や 読解などの高度な認知的活動において,その言語情報を自分の理解できる情報に変換処理をする面が重要である。Wikipedia には以下のように書かれている。
ワーキングメモリ(Working Memory)とは認知心理学において、情報を一時的に保ちながら操作するための構造や過程を指す構成概念である。作業記憶、作動記憶とも呼ばれる。ワーキングメモリの構造や脳の関連部位を調べる研究が多数行われている。一般には、前頭皮質、頭頂皮質、前帯状皮質、および大脳基底核の一部がワーキングメモリに関与すると考えられている。
このように、ワーキングメモリーとは学習において重要な概念である。外国語教育のみならずに、人間が行う高度で認知的な活動は、すべて記憶力や記憶の量と関連する。
第2言語学習の時の記憶
母語と比べて、第2言語学習の際には、その学習者の持つ記憶力に大きく影響を受ける。教員は、学習者の文法構造などの処理の負荷だけでなくて、記憶の 負荷についても配慮しておく必要がある。母語で簡単にできるような処 理が、第2言語を用いるときには、かなりの負荷がかかるのである。
英語の文を理解する時を例にとってみよう。When Tom came in the room, Susie had been reading a book. と言う文を理解するときは、先頭から順番に読んでいくのだが、従属節であるWhen Tom came in the roomを理解して、それをワーキングメモリーに入れて、次に主節である Susie had been reading a book. を処理する。すでに頭の中で処理が済んでいる従属節の内容を頭 に入れながら,主節の解釈に取り組むことになる。
しかし、この場合に、従属節が長すぎたり複雑だと記憶への負荷が重くなる。教員はワーキングメモリーへの負荷を考慮しながら学習を進めていくことになる。
一般に、第2言語の学習者は、母 語に比べて、学習言語の処理に苦労するため、その分だけ、最初の内容を記憶することが困難となる。頻繁に再確認をする必要がある。この結果、聞き直しができないリスニングを苦 手としたり、リーディングの場合は,戻って読みをすることとなる。
トレードオフ
とにかく、人間 が処理できる容量は限られているため、上記の例でも、主節の内 容の記憶と、従属節の処理にその容量が分けられることとなる。片方に容量か多く割かれると,もう一方がおろそかになってしまう。この現 象はトレードオフ(trade-off)と呼ばれている。
なお、数字や単語を記憶する場合、人が記憶できる量は「チャンク」と呼ばれる塊りで表すと、7±2個の範囲に収まると言われている(あるいは、4±1と言われている)。だいたい7個ぐらい(あるいは4個ぐらい)の事項を覚えるのが最大のようだ。このチャンクとは学習によって獲得された情報の まとまりのことであり,読解指導で区切る際の語数などに注意したい。
エビングハウスの忘却曲線
英語のような積み重ねが必要な教科においては、前の時間までに指導し た内容を学習者がきちんと把握しているかどうかが問題となる。学習者は学習した内容を時間の経過とともに、徐々に忘れていく。忘れる度合いを示す曲線として、エビングハウスの忘却曲線(Ebbinghaus)によれば、学 習した直後の記憶量が最も大きくて、その直後短時間の間に記憶量を示す曲線は急降下する。そして、その後は徐々にゆるやかに下降線を描いていく。

したがって教員は、学習者が内容を完全に忘れる前に、復習の機会を設け、短時間の学習で高い記憶を維持できるように努めなければならな い。さらに、グループにまとめて学習したり、イメージとともに覚えたりして、学習内容を長く記憶にとどめるようにする必要がある。これは短期記憶を長期記憶へと移動させることでもある。