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英語学習は早ければ早いほどいいのか。この問題に関しては多くの人は早期英語教育が必要であると考えている。その理論的な根拠として、臨界期仮 説(Critical Period Hypothesis)がある。この仮説は(あくまでも仮説であるが)、生まれた幼児は、ある一定の年齢にい たるまでの期間は、言語をスムーズに習得することができるが、この時期を過ぎると言語習得は困難になるという仮説である。
一般に母語を学ぶことが できるのは、生まれてから、12〜13歳頃であり、臨界期とはこ の期間のことを示すと言われている。例えば、野生児などは人間社会に復帰したとしても、普通の子どものようなレベルには達することができない。一般に、臨界期を過ぎての学習は幼児と比べると遅い、さらには音韻体系については、臨界期を過ぎてからの学習では、母語話者のような発音を得ることができなという現象が見られる。
以上のような点からこの仮説は一般に支持されること が多い。しかし、この仮説の根拠となる脳機能の左右分化(lateralization)は臨界期以前においても見られたり、複数の臨界期があるという説もあり、脳の変化と言語の習得を直接結びつけることは無理だ、との意見もある。
ところで、上記の仮説に対する反証として、必ずしも年齢が若ければ若いほど語学学習に有利とは単純に言えない場合がある。
たとえば。授業での活動が抽象能力や分析能力などの高度の推論を必要とするときは、年齢が高い学習者の方が有利となる。実際的な場面での訓練ならば、年少者の方がその場に溶け込みやすく覚えが早いが、教室のような場では年長者が有利である。また、具体的な状況(いま、ここ)に関する事項は年少者が覚えやすい、しかし、抽象的な状況に関する事項は年長者が有利である。
つまり、年齢が上がるとともに、学習者の認知的な能力が発達していく。その能力が生きるような場面(文法学習や英文の読解)では年長者の方が成 果をあげるが、より自然な会話場面で具体的な事項を学ぶときは、年少者が習得が早い。
このように、いろいろなケースがあるので、臨界期という言い方よりも、敏感期(Sensitive Period)という表現が適切と考える人もいる。
要は、学習者の年齢や認知能力を見ながら、教員は、与える教材、教え方を工夫していくことが必要である。