認知スタイルとは
学習者が学習や問題解決を取る認知スタイルにはいくつかのスタイルがある。それらのスタイルは次に挙げる要因から決まると言われている。
有意味学習
単語や熟語などを頭に入れる際に、ただ単に何回も何回も復唱して覚える 方法と、これまで既に学習している単語の形や意味内容と関連づけて 学習する方法がある。前者は機械的学習(rote learning)とよばれている。後者は有意味学習(meaningful learning)である。一般に年少の学習者は機械的学習が得意であり、年齢を重ねるごとに有意味学習が得意になってくると言われている。また、学習から多くの時間が経過してくると、有意味学習の方がその記憶の保持にすぐれていると言われている。つまり、内容が分かって覚えたことは、いつまでの記憶に残るのである。さらに、機械的学習の場合は、その後に似たような内容を学習すると、それらの干渉効果によって記憶が損なわれる(影響を受ける)ことがある。
歴史の年表を覚える時も、機械的に年代を覚えるよりも、歴史的な経過を頭に入れて、ある事件があって、その影響のもとに、3年後に次の事件が起こり、そのために次の政権は4年しかもたなかったという風に有機的に覚えていくと、相互の関連性がでてきて覚えやすい。
また、初めての人を覚える時も、よく出身地や趣味などを尋ねあって、お互い の共通点を見いだしてゆく。それによって、自分自身とその人を関 連づけることができ、覚えやすくなる。つまり、有意味学習では、既に頭の中にできあ がっている知識体系に、新しい学習材料を関連づけ、定着させようとすることであるとも言える。それゆえに、ある程度の知識を持っている年長の学習者の方が有利になってくるのである。
大学2年生を意味するsophomore という語を教えるときは、単に「sophomore=大学2年生」と教えるよりも、「あなたが大学2年生になったら何をしたいですか?どのような夢がありますか?What is your plan when you are sophomore? What is your dream?」というような聞き方をして、相手にこの単語を定着されるとよい。
この有意味学習が成り立つためには、新しい学習材料が、学習者自身の知 識体系と関連づけることのできる、意味のあるものであることが前提である。教員の役目は、提示する学習材料を、学習者がすでにもっている知識と関連づけて 意味のある内容にすることである。
場独立と場依存
場独立(Field Independence)と場依存(Field Dependence) は互いに相反する要素である。場独立の能力は、分析的・論理的思考力と関連が深い。一般に年長の学習者がこの能力に優れている。一方「場依存」は,全体を直感的に理解する能力であり、環境に依存しなければならない年少の学習者によく見られる傾向である。
人を見て、全体的な印象で判断する場合と、一点だけ、ネクタイの色とか、髪型、ズボンの形などが印象づけられる場合がある。
言語教育に関 して言えば、場依存の能力の高い学習者は、情況の中から発話の意味全体をとらえようとするので、自然な状態での言語獲得(acquisition)を得意とする。 場独立の能力の高い学習者は、ある部分に集中してドリルする言語学習に有利である。しかし、このスタイルは常に固定的なものではなく、場面によってそのスタイ ルを選択することもでき、最適なスタイルとなるような環境を作ることが 教員の役目である。
また、場独立では、規則を使って暗記するような学習を好むことが多い。文法的な規則や文章の構造などの体系的な学習を好む。場依存では、母語話者との会話の中で経験的に学習することを得意とする。
熟慮的と衝動的
学習者には、熟慮的タイプ(Reflective)と衝動的(Impulsive)タイプがある。英会話の授業で、実際に応答する場面を想定する。熟慮的タイプは情意フィルタ-(affective filter)が高くて、発話を躊躇することが多い。間違いをおかさないように、熟慮しながら会話していく。一方、衝動的タイプはあまり気にせず、どんどん応答する。一般に英会話の伸びが著しいのは、後者のタイプであると言われている。ただ、この両者についても、どちら が決定的に優れているというのではなく、そのバランスが大事であり、教員は、それぞれ の夕イプに応じた励ましや指導を与えるべきである。
教員としては、教室においては学習者にリスク・テイキング(risk-taking)を促すことが必要となる。これは教員の対応の仕方に大いに左右される。学習者の英語の発話内容が十分に伝わる場合は細かな誤りがあっても会話を止めず、後で指導の機会を見つけて訂正するなどの配慮が求められる。
あいまいさへの寛容度
あいまいな点があっても一応受け入れて先に進む態度と、直ぐにそこでストップして厳しくチェックする態度の二つがある。前者は曖昧性への寛容(Tolerance of Ambiguity)であり、後者は曖昧性への非寛容(Intolerance of Ambiguity) である。規則を先に明示せずに、実際にいくつかのコンテクストを経験させることを主とする学習法では、その過程の間は、完全には 理解できない状態がある。その状態に耐えながら(耐性 toleranceを持って)、次第に規則性を理解していくのである。
教員に直ぐに解答を求めるタイプがいる。少しやってみて直ぐに投げ出すタイプ、何もしないタイプがある。教員はこれらの寛容度を見ながら、授業を進めていく必要がある。
なお、一般的な話しだが、年齢が上がるにつれて寛容度は高くなる。大枠を理解しようとすると言われている。
カテゴリーの大きさ(Broad and Narrow Category Width)
学習した内容を自分の頭の中で分類し整理するときに,そのカテゴリーの大きい学習者(broad categorizers)と、カテゴリーの小さい学習者 (narrow categorizers)がいる。例えば,過去形などの文法規則を学習し た際に、前者の学習者は、規則動詞+ edのル一ルを不規則動詞なども含 めてしまい、過剰に一般化(overgeneralization)していく。一方で、後者のタイプは、学習した内容をなかなか他の事例に適用していくことができない。この規則動詞であっても、最後の語尾が違うたびに同じルールを当てはめてよいもの だろうかと躊躇してしまう。カテゴリーの範囲が狭いのである。
骨組みと装飾
記憶するときに、中心となる骨組みだけを覚えようとする人と、骨組みに加えて、様々な事柄を付加する傾向のある人がいると言われている。前者はSkeltonization、後者はEmbroidery と呼ばれる。これは前述の曖昧さへの寛容度とも関連する。