外発的(外的)動機付けと内発的(内的)動機付け
よい成績を取って親や先生からほめられたいと勉強するのは、外発的 (外的)動機付け(extrinsic motivation)によって勉強していると考えられる。一方、そのような外的な賞賛や何らかの物質的な報酬を得るためにではなく、学習そのものが面白い、あるいは学習の理解自体が目的で勉強するのは、内発的 (内的)動機付け(intrinsic motivation)によって勉強していると考えられる。
外発的動機付けを高める方法としては、①報酬や罰を与えること、②競争意 識をかき立てること(順位表を公表することなど)、③具体的な目標を与えること(例えば、今週末までに、単語を50個を覚えるという目標)、④フィードバックを与えること(教員からのコメントを与えること)などがある。しかし、不安が強くなり過ぎると逆効果となる。
一方、内発的動機付けを高めるためには,①学習者の興味や関心を喚起すること、 ②授業で、「驚き」や「発見」などが生じるようにして知的好奇心を刺激すること、③例題などを 通して部分的に成就感を味あわせ(a sense of achievement)こと、などが挙げられる。なお、内発的動機づけの概念を発展させたものとして、自己決定理論(self-determination theory)がある。
教室においては、学習者が自ら、英語を理解したい、学習したいという内発的動機付けがより重視されている。これは、外発的動機付けは、環境が変わると学習に意欲を 示さなくなる可能性がある。さらに、学習者が報酬や罰にばかり関心が向かうと、不正が生じることがある。
ただし、外発的動機 付けをすべて排除することは現実的ではない。さらには、まずはどんな動機付 けによるものであれ、英語を学ぶ機会を与えることで、それが内発的動機付けに発展する可能性があるからだ。
統合的動機付けと道具的動機付け
動機付け
「受験」は,学習者にとって確かに強い動機付けを与えるが、目標の学 校に入学してしまうと、途端に学習の意義を見失うことがある。このような進路のためとか、ある特定の目的のために学習するのは道具的動機付け(instrumental motivation)である。一方、例えば、アメリカ文化にあこがれて、その文化に浸りたい、できれば、アメリカ社会の中で暮らして、同化したい願って学 習するのが、統合的動機付け(integrative motivation)である。
従来は、統合的動機付けの方がより効果があるとされてきたが、現在ではやはりそれは個々のケースによって異なると考えられている。
テストでよい成績をおさめるために勉強するのは、道具的動機付けであるが、それをきっかけとして、英語圏の文化に興味を持つようになることがある(統合的動機付け)。これは動機付けが時間につれて、変化したことを意味する。
オリエンテーション
上記の総合的動機付けと道具的動機付けという2分法であるが、最近は動機付けよりも、志向や態度を示す概念として、オリエンテーションという言葉が使われる。すなわち、統合的オリエンテーション(integrative orientation)と道具的オリエンテーション(instrumental orientation)である(Gardner & MacIntyre 1991, “An Instrumental motivation in language study: who says it isn’t effective?” in Studies in Second Language Acquisition 13/1. 57-72.)。
達成動機
英語を勉強する動機だが、マズロー(Maslow)は、三角型の階層を用いて、動機自体を構造化して説明している。それは最上階に自己実現があり、それに至るまでの階層構造である。例えば「英語の勉強では、まず、お腹 がすいていないなどの「生理的欲求」があり、次に安心して生活できるという「安全欲求」(safety needs)、さらには、クラスの他のメンバーから仲間として自分が受け入れられているという「社会的欲求」(love and belonging needs)、そして、自分自身が才能ある人間 であると考えられる「認証への欲求」(esteem needs)などが満たされて、初めて、「自己実現への欲求」(self-actualization needs)が機能するのである。
英語の学習においては、他の音楽や体育の学習のように、学習者 仲間の前で失敗を犯す危険性が常にある。教員が指導の熱心さのあまり、英語の間違いに神経質になっている印象を与えたり、また、クラス集団がまとまっていないで、嘲笑や冷やかしを恐れる場面では、このMaslowの社会的欲求や認証欲求が満たされていないと考えられる。これらの下部の 階層の欲求が順に満たされて初めて、頂上にある自己実現への欲求が自発的に生まれるのである。