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2017-05-30  (更新 2018-10-02)

小学校で外国語活動の時間が新設されたのは、いくつかの契機がある。中央審議会が答申を出し、それを受けて学習指導要領の改訂をいう形を取ったのが大きな契機となった。

英語教育の開始時期の見直し

1986年4月:中曽根康弘首相直属の臨時教育審議会の第2次答申「時代の変化に対応するための改革」の第3部第1章(3)「外国語教育の見直し」では、中学・高校の英語教育が文法や英文読解指導に重点が置かれすぎていることや、大学でも実践力を身につける内容とはなっていないなど、現在の英語教育の非効率性とその改善の必要性が指摘された。そして「英語教育の開始時期についても検討を進める」と提言を行った。この「英語教育の開始時期についても検討を進める」という文言が、「小学校への英語教育導入」に関する最初の公式な文言のである。

国際理解教育の一環として導入する

1992年4月:大阪市立真田山小学校、味原(あじはら)小学校が「小学校の英会話」等に関する研究開発指定校とされた。これは日本で初めて公立小学校に英語が導入された例である。もっとも、私立小学校においては、以前より英語教育が目玉として導入されていて、1995年時点では、約85%の私立小学校では英語が教えられていた(アレン玉井『小学校英語の教育法』大修館p.9)。

1996年7月:第15期中央教育審議会の第1次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」において「英語の教科としての一律導入は見送られ、代わりに新設された「総合的な学習の時間」や特別活動などにおいて、国際理解教育の一環として、地域や学校の実態などに応じて、英会話などにふれる機会や外国の生活、文化に慣れ親しませるようにするべきである、その時はネイティブ・スピーカーなどの活用をはかることが望まれる」という指針が示された。これは英語の導入に対して、国語教育をより充実させるべきなどの慎重論が強かったので、それに配慮したものと考えられる。

(注:中央教育審議会とは、教育に関する文部科学大臣の最高諮問機関である。教育・学術・文化に関する基本的施策について調査審議し、建議する。教育刷新審議会の廃止にともなって1952年に設置された。略称は、中教審である。)

なお、1996年には、すべての都道府県で少なくとも一つの小学校が研究の指定を受けて、英語活動の実験が続けられていた。

1998年:小学校学習指導要領が改訂となる(2002年に実施)。「総合的な学習の時間」が新設となり、学習指導要領の総則において、総合的な学習の時間の 取扱いの一項目として、「国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは、学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国 の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること」とされた。これにより、全国の小学校 で、いわゆる「英語活動」が広がることとなる。

この段階では、英語教育は「外国 の生活や文化などに慣れ親しんだりする」という異文化理解の側面が強く強調されていて、英語力を付けるという側面はあまり強調されなかった。それにより、英語教育導入の慎重論者へも一定の配慮をしたものとなった。

外国語活動の新設(国際理解教育としての英語活動からコミュニケーション能力を育てる英語活動へ)

2006年3月:中教審の外国語専門部会から「小学校における英語教育について」「必修化」を内容とする答申が出される。「小学校の高学年においては、中学校との円滑な接続を図る観点からも英語教育を充実する必要性が高いと考えられる。例えば、年間35単位 時間(平均で週1回)程度について共通の教育内容を設定することを検討する必要があると考える」とされた。

2007年8月:文部科学省は、学習指導要領の改訂の基本的な考え方と小学校の教育課程の枠組みの素案を示し、そこでは「ゆとり教育」から「確かな学力の向上」に転換して、30年ぶりに小学校の授業時間を増やして、主要教科の授業時間を約1割増やした。英語活動においても、5,6年生を対象に週一回の「外国語活動」という必修科目が新設された。

2008年1月:中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善につい て(答申)」において、外国語活動において各学校でばらつきがあり、中学校との円滑な接続のために、国として各学校に共通に指導する内容を示すことが必要である。総合的な学習の時間とは別に高学年において一定の授業時数(年間35単位時間、週1コマ相当)を確保することが適当である」として、 外国語活動の新設が答申された。

2008年3月28日:改訂版小学校学習指導要領が告示された。そこでは、小学校第5学年と第6学年に外国語活動が位置づけられた。(教科ではなくて、領域としての扱いになった。これにより免許の問題が解決されて、指導は担任が中心となって、Team Teaching となっていく。

2009年:『英語ノート』という副読本を作成して、全国の5,6年生に配付した。「外国語活動」の完全実施は2011年からであったが、2年間の移行措置期間が認められていたので、2009年度より前倒しで導入した学校もあり、その数は全体の58%であった。なお、2012年より『Hi, Friends!』に変更された。

ここでの特徴は、国際理解教育としての英語活動からコミュニケーション能力を育てる英語活動へ大きな舵取りを行ったことである。

「英語活動」が「道徳」や「総合的な学習の時間」と同様に必修であるが、教科ではないので、数値評価はされない。

新学習指導要領(2017年告示)

2013年12月13日:「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を文部科学省が発表した。2018年度から段階的に導入し、2020年度の全面実施を目指す。その概要は、○小学校中学年:活動型・週1~2コマ程度・コミュニケーション能力の素地を養う・学級担任を中心に指導 ○小学校高学年:教科型・週3コマ程度(「モジュール授業」も活用)・初歩的な英語の運用能力を養う・英語指導力を備えた学級担任に加えて専科教員の積極的活用○中学校・身近な話題についての理解や簡単な情報交換、表現ができる能力を養う・授業を英語で行うことを基本とする。

2017年2月14日:文部科学省から次期学習指導要領の改定案が公表された。
教科としての外国語(小学校の高学年、5~6年)は下のようである。

第1 目 標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 外国語の音声や文字,語彙,表現,文構造,言語の働きなどについて,日本語と外国語との違いに気付き,これらの知識を理解するとともに,読むこと,書くことに慣れ親しみ,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする。
(2) コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,身近で簡単な事柄について,聞いたり話したりするとともに,音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり,語順を意識しながら書いたりして,自分の考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力を養う。
(3) 外国語の背景にある文化に対する理解を深め,他者に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

外国語活動(小学校の中学年、3~4年)は下のようである。

第1 目 標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深め,日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。
(2) 身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。
(3) 外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

中学校の学習指導要領(外国語)は以下のようである。

第1 目 標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 外国語の音声や語彙,表現,文法,言語の働きなどを理解するとともに,これらの知識を,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身に付けるようにする。
(2) コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,日常的な話題や社会的な話題について,外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり,これらを活用して表現したり伝え合ったりすることができる力を養う。
(3) 外国語の背景にある文化に対する理解を深め,聞き手,読み手,話し手,書き手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。


(注意点)学習指導要領の目標の違いに注目する。

コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成する (小学校中学年)

コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成する (小学校高学年)

コミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成する (中学校)

2018年時点での動き

新学習指導要領が告示された。小学校の5,6年生は教科としての英語であり、3,4年生は領域としての外国語活動である。教材として、『Let’s Try 1,2  』『We Can ! 1,2』が公刊された。小学校では音声中心の英語教育とされたが、5,6生では、読み書きも始まる。さらには、中学校とどのように接続していくかが問題となっていく。

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