コミュニケ一シヨン・ストラテジ一とは何か
コミュニケ一シヨン・ストラテジーとは、自分の言語能力の不足を補ってコミュニケーションを達成するために学習者が用いる方略である。なお、「話し手と聞き手の間で意味が共有されていないときに、その両者が意味にたどり着こうとするお互いの努力」とする定義もあるが、この場合はコミュニケーションは両方に責任があると考えられる。
そのストラテジー内容を具体的に分類したモデルだが、タローン(Tarone)やクック(Cook)によれば、以下のようになる。
回避(avoidance)
語彙力がないために表現できない物については表現しないこと、複雑な文法構造を使わずに、別の構造を使って表現することである。
(1) トピック回避 (topic avoidance)
言語的な困難を伴う話題や概念を避けることである。例えば、政治経済の話しをしようとしたが、自分には語彙力がないので、他の話題を選ぶことである。
(2) メッセージ中断(message abandonment)
特定の話題を途中でやめてしまうこと。政治経済の話しをしていたが、難しいので中断すること。
言い換え(paraphrase)
ある語を、それに似た別の語で表現したり、学習者が新しい語を作ったり、ある言い方を、それに似た別の言い方で説明することである。
(1) 近似表現(approximation)
知らない語句を類語・上位語などの、近似表現で代用することである。例えば、「上院議員」(Senator)が分からないので、a kind of politicianを使う。
(2) 造話(word coinage)
対応する英語が分からないので、新語を作ってしまうこと。例えば、「大統領」 (president)が分からないので、head politicianと言う。
(3) 遠回し表現(circumlocution)
対応する英語が分からないので、それを詳しく描写・説明すること。例えば「大統領」(president)を言いたいが、単語が分からないので、 He is a politician. He is the most powerful and respected politician.などと説明する。
意識的転移(conscious transfer)
母語または他の言語からの翻訳に依存することである。
(1) 逐語訳(literal translation)
とりあえず母語をそのまま逐語訳してみること。例えば、「悪循環」(vicious circle)と言いたいが、知らないので日本語をそのまま訳してbad circulationで済ます。
(2) 言語転換(language switch)
(よく似た)母語を外国語に持ち込むこと。例えば:カタカナ英語をその まま使うこと。「今日のナイターは面白かった」は Today’s night game was exciting. と言うべきところを、Today’s nighter was exciting.と言ってしまうこと。
(3)外国語化(foreignizing)
日本語を英語らしく発音する。
(4)コード切り替え(code-switching)
英語に日本語を挟む。
助言要請(appeal for assistance)
学習者が母語話者に助けを求めたり、辞書を使うこと。
(1) 分からない単語を相手(ネイティブ)に質問して教えてもらうこと。 例えば、「獣医」(veterinarian)が分からないので、What do you call a doctor for animals?とネイテイブに聞く。
(2) 分からない単語を会話の途中だが、辞書で調べる。
物まね(mime)
ジェスチャーなど、非言語手段による描写をすること。例えば、鷲(eagle)を示すのに、手を羽のようにゆったりと羽ばたいて見せる。
その他
時間稼ぎ(stalling)
Well, Let me see, Uh … などのような語句を用いてポーズを埋める。
学習者は、このようなさまざまなストラテジーを用いることにより、コミュニケ一シヨンを成立させることができる。英語教育の観点か らは、言い換えや助言要請は有効な学習ストラテジーであるが、トピック回避や母語からの直訳などは、推薦できるストラテジーとは言えない。
このようにコミュニケーションストラテジーを取り立てて指導することの価値について議論は分かれている。また、このストラテジーが言語発達を促すかについても、まだよく分かっていない部分がある。
