リスニングとは
リスニング(listening)とはヒアリング(hearing)とは異なる。”Listen to ~” は、「~に注意を向けてそれを聞く」という意味である。一方、hear は自然と聞こえてくるという意味である。「キク」だが、意識して「キク」のか、意識しないで「キク」のかは大きな違いである。
これは日本語でもキクは、「聞く」(無意識にキク)と「聴く」(意識的にキク)に漢字が分かれる。つまり、リスニングとは「意識的に聴くこと」である。学習指導要領では、従来から、「聞き取り」という表現を使っていたが、これは本来ならば、「聴き取り」と表現されるべきである。
リスニングは能動的な活動である。
リスニングは決して受動的な活動ではない。聴き手が既存の知識や、文脈、場面などに基づいて情報を処理し、意味を作り上げるという能動的な活動である。例えば、相手の発言によく聞こえない部分があっても、我々はたいていは類推してその部分の意味を理解することができる。要は、会話におけるバックグラウンドがあるから、それを利用しているのだ。
リスニングにより英語の力を伸ばすには、単に受動的に聞くのでは効果が薄い。よく英語のCD教材の宣伝に「毎日バックグラウンドミュージックのように聞いているだけで、ある日突然内容が分かり、そして話せるようになる」という言葉があるが、これは疑わしい。真剣に集中して内容を理解してやろう、という気持ちを持たない限りは効果は薄いのである。
リスニングの事前指導
なじみのある話題ならば、生徒達は分かりやすい。バックグラウンドを生徒達に与えておくことが望ましい。事前指導として、生徒が目的意識や意欲を持ってリスニングができるように、「何について、何のために」聴くのか心構えができるようにする。話題や談話の流れをある程度予想しながらリスニングできるように、生徒に話題の背景的な知識を与えることが望ましい。ただし、内容がほとんどすべて分かってしまえば、生徒は内容理解への動機付けが下がるから、すべてを提示するのは好ましくない。
(1)話題に関する知識について、日本語での説明を与えておく。例えば、地球温暖化に関するテーマならば、日本語での解説を3,4行ほど事前に与えておくとよい。
(2)英語で数行にわたり、同じ話題の英文(やさしい文)を読んでおく。
(3)内容に関する質問を提示して、話題や話しの展開を予想させる。
(4)地球温暖化に関する、キーワードを英語で与えておく。hot house effect, greenhouse gases, atmosphere, ultraviolet radiation, temperature などの語を理解させる。
(5)固有名詞は聴き取りづらいので、前もって準備しておく。例えば、Afghanistan, Arabia などの固有名詞は日本語のカタカナで予想される発音とはかなり異なるので、初回では理解できる日本人生徒はほとんどいない。
(6)写真などがあれば、それを提示する。
リスニングの指導
リスニングでは、一回ほど通して聴く。その後に数回聴く。回数などは臨機応変に選べばよい。この場合は、パラグラフごとに聴いたり、分かりづらい箇所は何度も聴き直したりする機会を与えたりする。
英語の音の指導を行う場合もある。例えば、音の連結、同化、脱約、省略、音の弱化、強勢、リズムなどを取り上げて説明するのは有益である。
単に繰り返し聴くだけか、二回目からは、空所のあるテキストを渡して、穴埋めを要求させるか、などの様々な方法が可能である。
shadowing と行ったりして、理解の定着と発音の訓練を行う。
ビデオ教材の活用
単に音声のみ聴く場合と、ビデオなどで話し手の顔の表情、手の動きを見ながら聴くのでは理解度がかなり異なる。実際のコミュニケーションでは、ノンバーバルコミュニケーションがかなりの要素を含んでいるので、望ましいのはビデオで話し手の表情も同時に見ることだ。しかし、現在の日本の学校の教室では、映像まで見る設備は整っていない。特別の視聴覚教室に移動すると可能になる。しかし、教室内では、音声を聴くことだけが可能だ。教員が教室にCDプレイヤーを持ち込み、それを聴かせるという方法が最も実際的な場合が多い。
ただし、コミュニケーションでは、映像から得られる情報がかなりあるので、映像があると実際は聴き取っていないのに、理解したつもりになることがある。その意味では、音声だけを聴かせるのがいいとの意見もある。
リスニングの事後指導
音声を聴き流しただけでは、効果が薄れる。効果を定着させるためには以下のような活動が可能である。
(1)生徒達が協力しながら、元の音声テープの復元をはかる。
(2)まとめに英文でsummary を書く。
(3)聴いた内容に基づいて、生徒達がdebate をする。(これは高校や大学レベルでの英語教育に可能だろう。)
(4)聞いた内容に基づいて、教員から生徒達に質問をする。